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自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【18.05.26.】『サイメシスの迷宮 逃亡の代償』感想

 

サイメシスの迷宮 逃亡の代償 (講談社タイガ)

サイメシスの迷宮 逃亡の代償 (講談社タイガ)

 

あらすじ:
東京都下で起きた女児殺害事件。
超記憶症候群のプロファイラー・羽吹允は、遺棄の状況から8年前の和光市女児連続殺害事件を模倣していると気づく。
和光事件の犯人・入谷謙一はふた月前に獄中で病死していた。
相棒の神尾文孝とともに、羽吹が入谷の周辺を聞き込むうちに、第2の事件が。
第1の事件との微妙な差異に違和感を覚えた羽吹は、超記憶を駆使して事件の真相に迫る。
(「BOOK」データベースより)
参照:シリーズ1作目『サイメシスの迷宮 完璧な死体』感想はコチラ

【ここから感想です】

 

前作『サイメシスの迷宮 完璧な死体』で続刊アリ(3部構成と聞いた気が)と分かってから、待ち遠しく思っていたので、今回は購入からそれほど間を開けないうちに読むことができました。
(相変わらず自分の時間確保が難しい…)

前作より真犯人が物語の中盤辺りで予測できる内容だと感じました。
この辺は、犯人を推理することに楽しみを置いていない私にとっては親切な話の運び。
事件解明の作品には、読者が主人公(探偵なり刑事なり)となって犯人を突き止めることを楽しめる作風のタイプと、事件解明に向けて主人公が葛藤や試行錯誤する心の動きを楽しませるタイプがあると思っているのですが、後者のタイプの作品だと思います。
東野圭吾さんの『赤い爪』やガリレオシリーズの一部などと似たカテゴリになるのではないかと。

前作の感想で、羽吹のハイパーサイメシア──超記憶症候群という障害について、私は「超記憶症候群というよりも、忘却不能生涯というほうが正しい気がする」と感想を述べたのですが、本作ではそれを覆されました。
写真のようにビジュアルを、今現在起きている出来事のように聞こえたこと、感じた臭い、そのとき抱いた恐怖などを克明に記憶してしまう障害という架空(多分、架空)の障害であるそれは、反復すること、不意に再現されたときに意図せず混ざる現在までの経験などにより、次第にゆがめられてゆき、交じり合ったそれらの『想像』が『記憶』にすり替わってゆくという下りを読んで、自分が前作で抱いた感想を論破された気分でした。

前作では主要人物である神尾と羽吹のキャラクター性の印象付けに文字数を割いた部分を感じたのですが、既に読者の中で補完されている彼らなので、本作では事件とその捜査の経緯に集中した話になっていて、より面白く読ませてもらいました。

英田サキ名義の作品を読み慣れている人には物語の中盤で真犯人が予想できていたのではないかと思いました。
この著者さんは、無駄な人間を書かないし、無駄な描写をしない方なので。

事件の真相を楽しむお話なので、ネタバレ無しの感想がかなり難しいのですが、過去の事件で犯人と確定して服役している人物の弟のパーソナリティは、実在のあの人やこの人を彷彿とさせて、暗澹とした気持ちになりました…。
今回の事件では、神尾の心境に近い感想を抱いてしまいました。
前作では、真犯人に共感できる点があまりにもなくて、羽吹と似た感覚を持ちながら読了したのですが、今回のお話では
大人の勝手に振り回されて人間性や境遇をゆがめさせられるのはいつだって子供
という部分がつらすぎて、相変わらずと言えば相変わらずですが、この著者さんの作品は日ごろ日常に忙殺して考えることのない「人としての在りよう」を自問させられる内容になっていました。
…いや、ちゃんとキャラ萌えなやり取りもありますけど…。

「逃亡の代償」というサブタイトルが痛い作品でもありました。
神尾以外の(羽吹含め)みんなが、無自覚だったり自覚していたりと様々な形で、それぞれの問題から目を逸らして逃げている。
その代償の大きさをそれぞれが痛感して、でもその痛みを抱えて生きていこうと決意する人もいれば、自分が逃げていたとようやく気付く者もいたり、苦い読後感でありながらも、苦いだけではない何か明るい一筋も感じさせてくれるお話でした。
ただまあ、第一事件の被害者の父親は、ねえ…(自重)

そして、また出て来ました、“友達”…。
あの落書きに、そういう意味があったのか、と最後にまたぞわっとさせられる終わり方でした。

羽吹の名前を知っている人物、敢えて「羽吹」ではなく「允」に執着する人物が“友人”ということなんだろうな、と読み返してみたのですが、推理モノが苦手な私は、まだ予想ができていません。
現在も存命で、羽吹を名前で呼ぶ人物で“友達”になり得そうな人物…?
・羽吹父&兄&継母
この線はあまりなさそうとは思っているけれど、毎回意外な人物が、という感じなので、どうなのかしら?
というか、羽吹父の今の奥さんって、羽吹さんと養子縁組していなさそうだし、この辺りは可能性として微レ存?
・五十川
羽吹さんと同年代だから、小学生同士で誘拐はあり得ないんですが、五十川父が出てきていないんですよねえ。
羽吹は記憶障害を起こすほどの出来事の中で、どうやら死体遺棄を手伝わされた雰囲気がある。
加えて、今回の作品で、“友達”が殺したと思われる被害者が夢の中に出てきている。
五十川氏は温和な人となりの割には、猟奇殺人などの資料に強い関心を持つ作家さん。
あ、でも、この人は羽吹さんを苗字呼びしているけれど。
フェイクという可能性も微レ存。

前作に出てきている気がするけれど、私が健忘発症で失念している羽吹さんの神尾より前の同僚も、詳細出てない気がするので、羽吹さんをなんと呼んでいたのか気になるので、その人の可能性もあるのかな…などなど、読了後も勝手にいろいろ妄想を楽しめる作品でもありました。

ラストに出てきた老舗ゴシップ誌の鈴倉氏が次回作で何かしらのヒントをくれる存在と勝手に予想。
彼に期待(でもキャラとしては本当に嫌いなタイプ。笑)
次作もおよそ1年後に発行になる感じでしょうか。
楽しみです。