本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【17.11.30.】『サイメシスの迷宮 完璧な死体』感想

 

あらすじ:
警視庁特異犯罪分析班に異動した神尾文孝は、協調性ゼロだが優秀なプロファイラー・羽吹允とコンビを組む。
羽吹には壮絶な過去があり、経験したものすべてを忘れることができない超記憶症候群を発症していた。
配属初日に発生した事件の死体は、銀色の繭に包まれた美しいともいえるもので、神尾は犯人の異常性を感じる。
羽吹は「これは始まりだ」と第二、第三の事件を予見する。
(「BOOK」データベースより)

【ここからネタバレ感想です】

 

 アイダサキさん、BLジャンルでは「英田サキ」さん名義で著名な作家さんですが、木原さんに続いてこの方もBLジャンル以外からの発行ということで、そしてこの作品では表紙が大好きなヨネダコウさんだったこともあったので予約してまで購入したのに、読むのが今ごろになったという。

 ていうか「電子版は表紙無し」って商品説明に書いてなかった!

 …ショックのあまり大文字&思い切り口語…紙書籍買い直しました…。

 この方、本当に警察組織のことに詳しいというか、勉強熱心でいらっしゃるということなのか、参考になることが多くて、そういった面でも他作品で面白く読ませていただいているのですが、この作品を読んだら、いっそう
「この作家さんはBLじゃない作品でもメチャクチャ人気出る人なんじゃなかろうか」
 と思うくらい、一つの(というか、一人の犯罪者)の事件について、犯人の動機からキャラクター造形、犯行の手口の綿密な描写から捜査する側(だいたい主人公)の解決へ向かうまでの思考や心理など、手に汗握る展開なのに、無知でも分かるよう、なおかつ飽きさせないような絶妙なさじ加減で説明も入っていて、途中で止められない、誘導巧みな作家さんだな、と改めて読了後ため息が漏れました。

 私は『踊る大捜査線』の青島刑事と室井管理官の関係がすごく好きなんですが、この作品の神尾と羽吹の関係もそれに近いものがあってキャラ萌えしてしまいました。笑
 立場やキャラクターは青島室井コンビと全然違います。
 神尾と羽吹は同じ現場周りの人間だし、刑事一課(殺人担当)の人間ではなくて情報捜査の部署ですし、神尾は青島刑事みたいな軽いキャラじゃないし羽吹は室井管理官みたいなクソ真面目じゃないし。
 ただ、羽吹が現場周りの刑事の道を選んだ動機と、室井捜査官が刑事を目指した理由に類似性を感じたことと、みんなが派閥やら出世やら事件の解決とは関係のない理由で暴走を止める中、一人だけ煽りまくって一緒に暴走するという部分に青島刑事と神尾の類似性を見て、なんとなく「いい関係だなあ」と。
 不器用なくらい初心を一貫するメンズはカッコいいです…。

 キャラ萌え話はこの辺にして、ストーリーですが、事件解決の鍵になっているのが、羽吹が子ども時代のトラウマから発症している『超記憶症候群(ハイパーサイメスティックシンドローム)』による、記憶のサーチによって手掛かりを得る、という辺りが、この手の作品を読み慣れている人から見れば「ご都合展開」に見えるかもしれません。
 でも、推理ものや刑事ものに疎く拘りもない私なので、その辺はとても納得のできる自然な展開であったこと、その症状(調べたらヒットしなかったので架空のPTSD起因の病気だと思います)がどういうものであるかを語られる下りでそちらへ意識を持っていかれたので、そのトラウマが羽吹を突き動かしているし、彼を彼たらしめているし、彼がああいう表向きの人間になったのかと切なくなる展開だったので、するりと受け入れることが出来ました。
 羽吹のメンタルを担当する医師が
 超記憶症候群というより、忘却不能障害というほうが正しい気がする
 と私見を述べるのですが、ものすごく頷けてしまいました。
(あと、どうでもいい感想ですが、このシリアスな場面で誤植を見つけて「ああっ!」となってしまいました。笑)
 羽吹は事件解決のために何度か自分の記憶を辿るのですが、神尾の視点を通じて彼の超記憶症候群を知って以降、このくだりを読むと、「サーチ」している間には該当しない記憶も辿るわけで、その間に都度、その瞬間に味わった感情の記憶も鮮明によみがえるわけで……と思うといちいち胸が痛くなって仕方がなかったです。

 そんな羽吹が、そして嗤えてしまうくらい綺麗事の理想論で熱血キャラな神尾が、予見している第三の犠牲者が出る前にこの事件を解決しようと奔走する気持ちに同調する一方で、犯人側の生い立ちや経歴、人間を知ると、簡単に善悪では語れないような何とも言えない感覚も味わい、やはり読了後に考えさせられてしまう物語となっておりました。

 先般読了した木原さんの『ラブセメタリー』を読了したときも思ったのですが、大人たちから受けた幼少期の言動の影響は一生ものだよな…と、深く深く考えさせられてしまいます。
 大人たちだけでなく、同世代の人からの影響も大きい。
 子どもの世界は狭いから、それが自分の世界のすべてだから、そこで自分という人間が本人の内面でも定義付けされてしまう。
 その怖さを感じる一面もある作品でした。

 この事件については一応解決が見られるのですが(なんとも後味の悪い解決ですが)、ずっと読み進めている中で、犯人に入れ知恵をした「友人」が登場します。
 この正体が明かされていません。
 最初は共犯者のことかと思い、続いて犯人の成育歴が判明してからは心の中にだけいる「友人」かと思ったんです。
 最後の最後に、してやられた…伏線回収してない、これは…っ、と一気に期待が膨らんでしまいました…続編アリだな!
(と信じたい)
(だって、『サイメシスの迷宮』のあとにサブタイついているわけだし、サイメシスは羽吹のことでしょ? みたいな期待)
 全体像として、シリーズのラストは羽吹と、彼が過去に遭った事件の犯人との対峙で完全終結、というふうに感じられる物語の序章的な内容でした。
 それでいて一冊で完結、というか。
 続きが読みたくなる終わり方で、完結してないうちは続きが気になって落ち着かないから完結するまで読まない主義の自分としては、焦れ焦れとさせられる作品でした。
 続きと羽吹を過去に襲った犯人を知りたい(2度目)

 あと、電子版でも表紙欲しかったです(2度目)

 主要人物は神尾と羽吹、神尾視点で描かれる物語ですが、羽吹のキャラクターが神尾を食いまくりで羽吹FIVERしてしまいました。笑

 続編切望希望します(3度目)

 これ、紙版届いたら多分感想はがきみたいなのが入っているだろうし、送ろう…繋海の片隅で続編希望してても出版社に届かない…(よほど羽吹と犯人の決着が見たいらしい。笑)

12/26追記。
どうやらタイガさんはシリーズ化する前提のレーベルみたいなので、続刊情報にアンテナ張っておくことにします。
タイガさんはラノベなのか文芸なのか今一つ解っていないのですが…多分、ライト文芸…。
ラノベライト文芸の違いは私の中で微妙な違いなので、一応文芸にカテゴライズしましたが、そのうち一般的な認識の違いがはっきりしたらライト文芸のカテゴリーを作ったほうがいいのかな、という気がしてきました…。