本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【19.01.16.】『ヘルハウンド 犯罪者プロファイラー』感想

 

あらすじ:
凶悪犯罪者を”悪の心理”で暴く、衝撃のクライムサスペンス

悪魔VS凶悪犯罪者――衝撃の犯罪心理サスペンス!

「俺は邪悪な話術を使う、悪魔なんだよ」
死体マニアの変人ながら、天才的頭脳で若くして犯罪心理学の准教授を務める男、犬飼。
彼は“特権法”登録ナンバー〇〇二――難解事件の捜査を特別に国に認められた民間人プロファイラーだ。
【黒妖犬(ヘルハウンド)】の異名を持つ彼は、幼馴染の副検事・諭吉から持ち込まれる凶悪犯罪の真相を【悪の心理学(イーブルテクニック)】で狡猾に暴いていく。
しかし、犬飼が死体を愛するきっかけとなった25年前の事件――諭吉の母の自殺だけは真相が不明で……。
amazon内容紹介より)

【ここから感想です】

 

アイダサキさんのサイメシスみたいなハードボイルドを想像して購入したのですが、違った。笑
本を読むのが苦手な人にも、文字だけのコミックという感覚でサクサクと読める読みやすい作品でした。

舞台設定として面白い(物語が無限に追加できそうという意味で)のは、
1)殺人事件の時効が廃止されている

 (追記:2010年4月には実際に廃止されていると後日知りました)
2)民間に無償で被疑者のプロファイリングを委託する権利を検察庁が有する
という点。
犯罪のプロファイルではなく、犯罪者のプロファイル。
確かに類似犯罪(模倣犯罪を除く)の被疑者には、統計結果として類似性が見られるとは聞いたことがありますが、人間の数だけ動機がある、と考えると、犯罪のプロファイルと同時に、犯罪者のプロファイルも必要かと思うことが合ったりしたので、それが架空の世界で実現している世界観は面白かったです。

死体愛好の変態犯罪者プロファイラー・犬飼準教授&副検事・諭吉龍一郎のコンビが「女子高生拉致殺人事件」「久坂部一家バラバラ殺人事件」を解決してゆく前半と、その2事件を介して犬飼が感じた違和感、そして諭吉の微妙な変化により、後半で犬飼は諭吉が被疑者とされる「早乙飛鳥殺害および死体遺棄事件」の解明に奔走する、というのが大筋です。

先の2事件の共闘の中で、読み手は2種類に分かれるのではないでしょうか。
諭吉は検事として頼りないなあ、でも人としてはすごく近くにいたらいいな、と思う人だなあ、優しい人だよねえ──からの「えっ!?」な展開
または
なんで諭吉は検事なんかになろうと思ったんだろう、親が元検事長だからだとしても、本人の意思でその職に就いているっぽいよなあ、あれ?なんか妙なところでボンクラしているけれど、変なところで過剰反応してないか?──からの「あ、やっぱり」な展開
私は後者でしたが、ほかの読者さんはどうだったのだろう。

この2人、35歳の設定なのですが、キャラクターは20代半ばを思わせるので、そこにはかなり違和感を覚えたリアル中年でした。笑
というか、35歳で諭吉くん童●とか不憫な設定でした…。涙
そこにも(作中に書かれてはいないものの)根拠があったりするわけで、全体を読んでの感想は、
「男子たちー、女性の母性神話とか清廉に夢見過ぎだよ、魔法使いになっちゃうよ」
でございました。^^;
1つ目の事件では、「愛するとはどういうことか」を問うのが主題、2つ目の事件では「家族間の愛憎や絆とは」を問うのが主題と解釈、それらを踏まえてこの作品そのものの主題かなと思われる「諭吉親子の家族の在り方としての歪み」をエンタメ的に楽しんでください、という構成でした。

犬飼の背景はほぼ分かりませんが、ただ、幼少期の犬飼は、幼馴染だった諭吉が唯一の友だちと言えそうなくらい内気で引っ込み思案の子だったことにより、諭吉が両親以上に彼に執着しているのは、そういう背景があったからなんだなあ、と母性が疼きました。
諭吉がとにかくバカが付くくらい生真面目なよい子で、お母さん気分になる作品でした。

当初楽しみにしていた捜査のシーンや、被疑者とのネゴシエイトめいた攻防については、日ごろその辺に関心のない人が読む分には楽しめると思います。
逆に、ミステリーや刑事ものを見慣れたり読み慣れたりしている人だと、サクサクと誘導されていく被疑者たちに違和感を覚えてしまうかもしれません。

むしろ私はほぼモブであろうはずの、犬飼の恩師・山田名誉教授と諭吉のお父さんで元検事長だった諭吉藤吉郎の過去編のほうを読みたいと思ってしまったクチ…オジスキーですみません…。
なにげにこの2人の存在感が私の中では大きくて。笑
民間プロファイラー第1号の山田教授は、犬飼に様々なヒントを与えたり、早乙事件の検証をする際、途端に目つきが変わったり、諭吉パパのほうも犬飼との舌戦のとき、なかなかな強敵で手の内を知り尽くしている感が半端なくて、この2人が現役のころはどんな難事件をどんなふうにプロファイルして被疑者を落としていたのだろう、というほうに意識が向いてしまいました。

キャラ立ちが半端なかったです。
それゆえに、好みがすごく分かれるのではないと思います。
ストーリー重視の人には、このキャラのくどさが鼻につくかもしれませんが、キャラ重視の人には気持ちがいいくらいそれぞれの個性が物語序盤のうちから読者に理解しやすく、さすがラノベという感じです。

犬飼の死体愛好は、25年前の事件だけが引き金では成り立たない気がします。
彼の背景も過去編か何かの形で読みたいなあ、と思わせる謎の多さです。
幼少期からの性格の振り切り方がすごい。笑
3事件の解決という意味では綺麗に完結していますが、個性の強いキャラクターばかりなので、彼らそれぞれの物語を読みたいと思わせる作品でした。