【19.06.01.】『パーフェクトワールド』感想
【ここから感想です】
ネットの広告で見掛けて試し読みを読んだら、舞台が懐かしい故郷だったので、軽い気持ちでセット購入しました。
舞台は信州・安曇野周辺と東京。
どちらも住んでいたことがあるからこそ、「あ、その雰囲気!分かる気がする!」という場面が多くて、望郷の思いに駆られた序盤でした。
きっと一昔前なら、ヒロインの両親が読者から見て「無理解な存在」として描かれるこの手の話なのでしょうが、それぞれの立場や心情をとても丁寧にリアルに描いており、恋愛のお話であると同時に、親子の話でもあり、娘が「親の子ども」から1人の成人女性として成長を描いているお話でもあると感じました。
多様性が叫ばれている一方で、不寛容でもある現代社会の一部分を生々しく切り取ったお話でもあると感じます。
なんとなく「大変だろうな」「不便が多いのだろうな」とは誰もが想像できても、具体的にどう大変で、どんな支援が必要なのかまで思い至ることはめったにないのではないでしょうか。
それを気付かせてくれる作品でもあり、同時に「やさしさ」と「優越感」が表裏一体な危うい感情でもあると自戒を促されるやり取りがそこかしこに散りばめられている作品でもあります。
最新巻(10巻)で作者さんご自身でさえ「この2人どうなっちゃうんだろう?」と不安を覚える展開で、それこそ「愛さえあれば」という綺麗事を片っ端から潰していく現実に翻弄される主人公たちでした。
それだけに、彼らの選択には、読む側もただ「よかったよかった」と思うだけでなく、ある種の覚悟を含んでのその選択だと感じさせられ、物語は終わっても、2人の人生はこの先も続くんだよな、では自分は実生活の中で、実際にこうある人たちもいる中で、何ができるだろうか、と気の引き締まる思いで読み終える感覚でした。
地方でもかなりバリアフリー化が進んでいるとは思うのですが、過疎化が進んだ町村では、今でも不便を強いられている地域があります。
個人的に、鮎川くんのような「分かってくれる設計士さん」の存在が、もっとたくさんこの業界に携わってくれるといいなあ、とすごく感じました。
物理的な面だけでなく、職業や個々の心のバリアフリーももっと進んでほしいと思わせる作品でした。