【13.09.15.】『植物図鑑』感想
あらすじ:
お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません。躾のできたよい子です―。
思わず拾ってしまったイケメンは、家事万能のスーパー家政夫のうえ、重度の植物オタクだった。
樹という名前しか知らされぬまま、週末ごとにご近所で「狩り」する風変わりな同居生活が始まった。
とびきり美味しい(ちょっぴりほろ苦)“道草”恋愛小説。
(「BOOK」データベースより)
【ここから感想です☆】
気づけば有川さんの作品ばかり読んでいます。
安心して読める。
読後の爽快感が半端ないので、実生活上の煩雑なあれこれから一時的な現実逃避がしたくて、
“確実にハッピーエンドを飾る有川作品を読むことで、仮初の充実感を得たい”
という後ろ向きな動機があるのかも。笑
若い世代向けの作品とのことで、序盤は「えー、それはないわ~」と感じてしまう主人公と相手の出逢いですが、それすら違和感なく読み進めることができ、その勢いが心地よかったです。
多分、有川さんの作品で、初めてつら過ぎて泣けました。
途中で一度休憩を入れてしまったほど、苦しくなって読むのをやめました。
少しネタバレになってしまうので白文字で書きます...
つい前日まで、当たり前のように日常が続いていて。
だけど、仕事から帰ると、いつも灯っている灯りがついていない。
悪い予感を抱きながら、恐る恐る居室へ続く扉を開ける。
そこにあったのは、2人の暮らす部屋の合鍵と、
『ごめん。またいつか』
というあまりにも短過ぎる、だけど思いを残しまくっている一筆箋。
圧し掛かって来るのは、
“悪足掻きをしたくても、自分は相手のファーストネームしか知らない”
という現実、事実。
追い討ちのように、数ヶ月後になってから、唯一の支えだった
“もう一つの合鍵”
と、
『待たなくていい』
という短い決別文が差出人住所の記されていない書留で突然届いてしまう。
ここで、読めなくなりました。
そのくらい、それまでがあまりにも幸せすぎた…。
それも、私が個人的に大好きな
“お金では替えられない類の幸せ”
な時間と思いを積み重ねてきていた2人だったので……ぽろぽろと泣けてしまって、読み進めることが出来ませんでした。
「ひどいよ、元気を分けてもらおうと思って読んだのに、有川さんってこういう作品も書くんだ」と、とんだ八つ当たり。笑
少し落ち着いてから、もう少し手前まで遡って再読、その流れのまま続きも読んで気付きました。
主人公は、実は少しずつ予感はしていた。
そしてそれがお互いにとって、現実から逃げている状態でもある、ということも自覚していた。
それでもいいと思っていた主人公に対し、相手の方は「このままじゃダメだ」と先に立ったんだな、と。
だから最初の一筆箋では「またいつか」、そして2通目で最後の鍵と一緒に「待たなくていい」と。
完璧理想系イケメンなのに、だけどやっぱりそういう人でも弱ること、挫けそうなこと、色々あるんだな、人間だもの。
そんな部分に気付けました。
恋愛小説として楽しむお話であるのはもちろんのこと、それ以外についても…巧い言葉が見つからないのですが、
“自分の本心に、心に、ちゃんと向き合ってごらん”
と、問い掛けてくれるようなお話でした。
私は、
「逃げちゃダメ、必ずあとになってまとめて追いかけてきて、圧し掛かって来るよ」
みたいな解釈をしました。
逃げちゃダメだ、と自分のお尻を叩いて叩いて叩き過ぎて、そして鬱を患ったり、という人が多い気がします。
それは、「何から」逃げるのかを見誤っているのであって、間違ったそれからは逃げていい、まず「何から」逃げらたいけないのかを、自分の胸に問うことから始めないと、と思わせるお話でした。
安定の有川作品、と感じるラストでした。
元気をたくさんもらいました。
個人的に植物関係と関わっていた時期があったので、そういう方面でも面白く読めました。
レシピは貴重です!
久し振りに蕗料理を作りたくなったり、摘み草をしたくなったりしました。
私の住んでいる地域は実家と違って水が綺麗じゃないので難しそうだなあ、と、それがちょっと残念。
影の功労者が意外で、何気にその子のその後も気になってしまう終わり方でした。
仲直りできていますように、と最後に祈る想いで読了しました。