本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【19.05.12.】『魔性の子』感想

 

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)

あらすじ:
教育実習のため母校に戻った広瀬は、教室で孤立している不思議な生徒・高里を知る。
彼をいじめた者は“報復”ともいえる不慮の事故に遭うので、“高里は祟る”と恐れられているのだ。
広瀬は彼をかばおうとするが、次々に凄惨な事件が起こり始めた。
幼少の頃に高里が体験した“神隠し”が原因らしいのだが……。
彼の周りに現れる白い手は?
彼の本当の居場所はどこなのだろうか?
(文庫本裏表紙内容紹介より)

 

【ここから感想です】

 

作品感想の前に、この作品をジャンルとして「ライトノベル」にするのか「文芸」にするのか悩みました。
作品へのamazonリンクにあるタイトルを見てしまったので、この作品が『十二国記』と読む前に盛大なネタバレになっているという…。
十二国記』は確かラノベ講談社ホワイトハート文庫)だった気が…。
ラノベの定義など未だに多種多様な意見があって「これ!」という明確な定義がないそうなので、挿絵なしで新潮社文庫というレーベルから、一応「文芸」ジャンルの記事としてupします。

本題=感想。

この作品の発表は1991年=平成3年、まだラノベという概念が一般に知れていないころ。
スマホもケータイも登場しない世界観が、妙に懐かしく思いました。
まだポケベルの時代ですよね、このころって。
友だちとのやり取りが加入電話だったり、約束をあらかじめしてから遊ぶとか会うとかが普通だったり、そういう時代なので、電話線が切られている、なんてシーンとか、うわぁ、そうだった、そうだった、みたいな懐かしさが…。
いきなり本題から逸れた感想ですね、すみません。笑

まだ今よりも人と人との垣根が低くて、人間関係も濃い時代。
そんな時代に描かれた作品だからこそ、なのか、高里の孤立感は教室の中でいっそう際立って見えました。
そして、教育実習生の広瀬は、大3だろうから、21歳、高里は1年ダブっているので18歳。
3つしか年が違わない「先生」と「生徒」です。
この作品が発表された当時に私が読んでいたとすれば、広瀬とほぼ同い年なんですよねえ。
私は社会人だったので、広瀬のように「本当はここは自分の居場所じゃない」みたいなモラトリアムな考えを持つ余裕なく娑婆に揉まれていたので共感できなかったのでしょうが、広瀬は広瀬で世渡りが下手というか、どこか浮いた存在で孤独を感じていて、臨死体験があったことも相俟って、やはり教室で浮いている高里にやたら親近感を覚えたり、年上で先生(仮)だったりもするので保護欲みたいなものもあったり…という話の滑り出しなのですが、物語が進むにつれ、ものすごい寂寥感が物語全体を覆い尽くすような、息苦しい展開と主要人物たちの心の動きを感じました。

高里の周辺で起こる奇怪で恐ろしいあれやこれやは実にホラーテイストで、小野さんが元々ホラー畑だからこそ、なのか、「えっと、これラノベ…?」みたいな怖さがありました。
でも、次第にホラーでありながら、人間の怖さという別の一面が前に押し出されてきて、高里の、そして高里を守る広瀬も居場所が奪われていく展開が、なんだか昨今のネットリンチに近いものを連想させて、未知の何かよりも人間が怖い、と思わせる話でもありました。
さらにオチ(オチ?)が、まさかのファンタジーな結末で、要素がメガ盛りでした、今のラノベでは(新人賞投稿作品などとしては)書かせてもらえないんじゃないか、というくらい要素が多いです…。

広瀬の高校時代の恩師でもあり、教生としては担当教官として登場した後藤先生がとてもステキな先生です。
広瀬と高里の符合を見抜き、それでいて、広瀬には
「おまえは高里とは違う」
「高里と親しくなってから、厭世観が強くなった」
「引きずられるな」
みたいな意味合いの警告をする人なのですが、本当に教え子たちをよく見ていらっしゃる…と。
似て非なる者、という事実をなかなか受け入れられない広瀬の心情にシンクロしてしまう自分がいました。汗
ありのままの自分をなかなか受け入れられなくて足掻く、という10代後半から20代をとうの昔に通り過ぎた今の自分でこの作品を読むと、懐かしむ思いで「そういう気持ちに七転八倒したころもあったなあ」と思うのですが、この世代のうちに読んでいたら、痛くてしかたがなくなる読後感になるのではないかと思ったり、思わなかったり。
読み方次第なのだろうとは思いますが、キャラに感情移入するとキツい作品だと思います。
俯瞰で物語を追う読み方であれば、「え、あれ?いつの間に…?」と、気付けば「教室」という小さな空間での小さな摩擦みたいな何かが、とんでもないスケールになっていて、その「いつの間にか」感に旋律する話の運びです。
『十二の国』って何!?
と思わせる終わり方、と思ってしまうのは、『十二国記』の存在を知っているからでしょうか。
その後を知りたいと思わせる終わり方なので、気合いを入れてシリーズ読破をぼちぼちと目指そうかな、と思いました。
もう、広瀬の世界には二度と戻ってこないのかな、というのも何気に気になったりしますし。
シリーズの中に広瀬の後日談があるといいなあ。
後藤先生の
「おまえ(広瀬)がいる場所はここしかないんだ」
という、後藤先生自身が自覚しているエゴ、でも教え子に対する情愛のこもったエゴを、高里がいなくなったあとの広瀬が、ちゃんと受け止めて前を見て生きてゆく姿を見たいなあ、と思わせるくらいには、広瀬の生きづらさに対する解決をみたい私です。^^;
先般の『残穢』くらいの覚悟で読み始めたのですが、ホラーの面は存外ソフトだったので、その点、夜は壁や家の軋み音に怯えて眠れない、という事態にはならない内容でほっとしました。笑

とにもかくにも、広瀬のその後と人間の怖さに強いインパクトを感じる作品でした。