本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【16.11.16.】『二重螺旋』感想

二重螺旋 (キャラ文庫)

二重螺旋 (キャラ文庫)

 

あらすじ:
 父の不倫から始まった家庭崩壊―中学生の尚人はある日、母に抱かれる兄・雅紀の情事を立ち聞きしてしまう。
「ナオはいい子だから、誰にも言わないよな?」
 憧れていた自慢の兄に耳元で甘く囁かれ、尚人は兄の背徳の共犯者に…。
 そして母の死後、奪われたものを取り返すように、雅紀が尚人を求めた時。
 尚人は禁忌を誘う兄の腕を拒めずに…!?衝撃のインモラル・ラブ。
amazon内「BOOK」データベースより引用)
忠告:この作品はBLなので、苦手な方は自己責任で感想をお読みください。

感想を書く前に。
BLジャンルを好む方は作品そのものだけでなく、レビューや感想についても繊細にいろいろ思うところがある、という話も散見されるので、このジャンルの感想は公言しないでおこうと思っていたんですが、ちょっとこのごろ切実に…健忘著しくて…備忘録させていただきますが、あくまでも個人の感想です。
私はBLの「こう読むべし」という部分を全く理解していないので、文芸やラノベなどと同じような読み方しかできません。
好きな理由や面白かった部分、また疑問に思ったところや読み流してしまった部分があることにより、腐女子の方に不快感を与えてしまう場合もあるかと思います。
その場合は読むのをやめて、そっと立ち去っていただければと思います。





【ここから感想です】

 


BL好きな方から3巻まで貸していただき、読了後amazonさんで全10巻+外伝をポチってました…というくらいには、えぐるように深い作品でした。
でも、まだ完結していないシリーズもののようです。
完結を待っていたらいつまでも感想を備忘録できそうにないので、現段階までの感想を備忘録しておこうかと。

1巻で2001年の発行となっていたのですが、この時期すでに「BLで重い話はNG」と言われていたのだと作者さんのあとがきで知りました。
それでもゴーサインを出した担当さんとしては、内容がBLに留まらない、人間の深い部分とか闇の部分とか、そういうのが剥き出しにされていて、あまりにも秀逸な作品だったからなのかな、というのは私の憶測ですが。

冒頭から、だいぶ長く篠宮家の『円満家庭』の様子が描かれます。
「えっと、BL…どこ?」
と思うくらいに長く続きます。
「早よ濡れ場が見たいんじゃあ!」
という腐女子さんならキレかねないくらい、続きます。笑

それだけに、そのあとの反動が半端ない暗転でした。

いわゆる「小説のお作法」ガン無視に近い独特の文体&構成で、レビューを拝見すると、それについて辛辣なレビューをされている方もいました。
例えば、体言止めの多さとか、視点が同じ章の中でもどんどん変わるとか。
今どきのBL小説を読み慣れている人には読みづらいのかもしれません。
お行儀よく読者を誘導してくれる作品ではないと思いました。
読者の好みや読書のスキルを求められる文体や構成かも…。
行間を読むような作風が今のラノベは少ないので、文章で書かれていることを丸呑みする読み方をされる方にはじれったいかも?
私はその独特な文体や構成に引っ掛かる暇がないくらい内容に引き込まれました。

マイホームパパを絵に描いたようなお父さん。
ちょっと昭和を感じさせるくらい、良妻賢母でおっとりとした、穏やかで優しいお母さん。
外国人の曽祖父を持つがゆえに一人だけ先祖返りして、一家からも世間からも突出している美形で文武両道、完全無欠な大人びた長兄・雅紀。
長兄ブラコンで勝気、才色兼備の長女・沙也加。
末っ子の特権を使い放題、でもその無邪気さが魅力で愛されているやんちゃな三男坊・裕太。
そんな個性的な兄姉弟に挟まれて、特に姉と末弟の勝気な性格による衝突が日常茶飯事な篠宮家で完全なるスポンジクッション役に収まらざるを得なかったのが、次男の尚人。
基本的にはこのスポンジ担当の尚人視点でストーリーが進んでいきます。

元々が続刊を刊行する予定で書かれたのでしょうか、1巻では割と中途半端に終わります。
1冊読み切りという形は、出版業界が氷河期に入ってからの風潮と思っているので、古い作品だし、アリかな、と思ってするっと2巻へ進みました。
というくらいには、「一見家庭円満の中に潜む人間の醜さ」みたいなもので溢れかえっている内容でした。
BL要素に関してよりも、そっちに意識を持っていかれました。
(だから割とハードエロな内容だけど読了できたのかもしれない…)
私自身が、「当たり前がある日突然崩壊する」という経験を何度か踏んでいるからか、篠宮家が崩壊していく様、自分ではなす術もなく、プライドやこれまで疑いもしなかった諸々のことが周囲の好奇の目によって壊されていく過程の中でもがき苦しんでいる兄姉弟たちの心情描写に、どの子にも共鳴する部分があって、何度か休憩を摂ったくらいでした…キツい…。

歪みを自覚して恐怖する尚人。
歪みを自覚して開き直る雅紀。
歪みを自覚していなくて世間のモラルにはまろうとする沙也加。
歪みを知らなかったのに、両親と兄姉の歪みを目の当たりにして次第にゆがんでいく裕太。
それぞれの内面がそれぞれの視点で描かれ、同時に、各兄姉弟の目に映るそれぞれも描かれていて、どの子もきゅうっと抱きしめたくなりました…雅紀兄以外は。笑

開き直ってからの雅紀兄は、私の理想的な人だったなあ、自分が斯く在りたい、という意味で。
内容を知っている方が聞いたら「あんた頭おかしいw」と言われそうですが…。汗
一番守りたい者を守るためなら、ほかのすべてを切り捨ててでも守る。
という潔さは、自分にはないものなので、1巻では鬼畜外道なまま終わってしまう雅紀兄の言動だったんですが、読み進めていくうちに雅紀兄への思い入れが一番強くなりました。
まあ、それでも初動のあれは赦せませんが;
それを赦せてしまうものなのかなー、そこはまあBLだから赦せないと話にならんのかなあ、と、尚人の寛大さにビックリだったんですが、これも続巻を読み進めるうちに、納得。
尚人は決して流されているのではなく、無自覚な一面もあったんだろうな、と。
あと、年の割に達観しているからかもなあ、とか。
尚人は何をされても言われても、それによって穢されることのない綺麗な存在として描かれているのですが、読み手はどうとらえるのだろう…と、そこまで深く考えながら読む人はいないのか…?;
尚人のキャラクターは、嫌いではないんですが、過酷な環境の中で取る行動、考え方、状況や相関関係やキャラクターを見て対応する、言ってみれば人の顔色を窺いながら無難に済ませようとするとか、端々に自分と重ねてみてしまう嫌な面が見えてしまって、決して綺麗な存在ではないよな、と思ったりした…狡い、みたいな?
多分、雅紀兄がいていいよな、狡い、と羨んでいるのかもしれません。笑

モラルにはまろうとする沙也加の矛盾や葛藤は、読んでいて切なくなりました。
自分で自分を縛っている自覚もなく、手放すだけの潔さもなく。
ああ、これが「女」だよな、と。
最愛の長兄と母のそれを見たとき、死んじゃえと吐き出した相手が、兄ではなくて母という辺り、この子も大概ゆがんでるよな、と。

裕太の反動は、年齢設定が幼いからか(序盤で小2、中盤でもまだ中学生だし)、裕太自身に何かを感じるというよりも、こんな幼い子がいるのに、なんでお母さん壊れたかな、と、お母さんへの憤りで、裕太の心情の場面に来るたびムカムカとしてしまいました。
夫婦なんて他人、紙切れ一つでいなかった存在にできるような繋がり。
だけど、親子は切りたくても切れない。
なのに彼らの母親は、他人でしかない旦那に全幅の信頼を寄せるというより依存していて、それが自分の思い込みでしかないと気付かされて壊れるとか、それによって子供たちがどれだけの苦渋を強いられるのかと、率直な感じ方をする裕太の心情を読むたびに、お母さんへのイライラが増しました…裕太、切な過ぎてハグしたくなる…。
それだけに、兄2人のあれやこれやについては顔を顰めてしまうわけですが。
でも、兄2人の心情を見ればまたイライラがなりを潜めるわけで、誰も悪くない(兄姉弟は)というのがとても切ないお話でした。

3巻辺りまでには、雅紀兄と尚人がなんかめっちゃわだかまり解けていたりするので、まあいいんですが、今のところ裕太が不憫すぎるので、10巻までの続刊が届いて読了するまでは、どうなのかな、って感じです。
まだいろいろ気になる人のその後も分からないですし。
桜坂くんって、どうなの? とか。
野上くんって、どうなの? とか。
あと!
雅紀兄のモデル先輩(ってより師匠? 恩師??)の加々美さん!!
そうかノンケか、ちっ、と思ったのは私だけなんでしょうか?
(やばい作品古過ぎて知り合いでこの作品を知っている人がかなり少なそう…?)
加々美さん、めっちゃサブキャラなんですが、不遜で上目線の雅紀兄が一目置くほどの人なので、やっぱり威風堂々とした感じの、そして、いい感じに中年=おっさん…うわぁ~…。///
となっていたので、外伝が雅紀兄と加々美さんとの出会いepもあるとのことですし、追加でポチってしまいました。笑
昨夜検索掛けたとき、この外伝に気付いてなかったんですよね…今、amazonさんを再訪問して見つけました…再確認できてよかった…。

昏さだけが際立っている作品ではなく。
そういった環境、状況、葛藤に苦しむ尚人とその兄姉弟たちに向けられる一部の人たちの言葉には、この物語だからこそ沁み込んでくる言葉の数々があったりもしました。
例えば、雅紀が『東の青龍』と呼ばれるほどの剣道の実力者だった時代を知る尚人の学年主任教師(だったかな?)、立花先生の
『事実は一つでも、真実は一つとは限らりませんよ?』
『結果がすべてであって、その過程は問わない。そういう人もいますが、僕は、そのプロセスこそが一番大切だと思います』
『物事を成すとき、結果など気にしないでしょ? 何のために、どんな努力したのか、それが大切なのだと思います』
立花先生は、決して押し付けない物言いをするのです。
それでいて、確信に近い説得力を醸し出している…。
このところ、いろんなことについて「結果がすべて」と胃をキリキリさせていた私が、尚人とともに立花先生から視座の変換をさせてもらえて、このくだりのところではちょっとうるっときました。
(そういう場面ではありません…)

改めて思いました。
「面白い作品なら、何でもアリ」。
既に感想長い…けど、全巻読了したら追記します。
(ネタバレさせずに感想を書くって難しいですね…しみじみ…;)