本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【18.01.24.】『司書子さんとタンテイさん』感想

 

あらすじ:
小さな市立図書館の児童室に勤める司蕭子(つかさ しょうこ)は、プライベートでは泣き虫で人見知り。
ある日“司書子さん”と馴れ馴れしく蕭子を呼ぶ、“タンテイ”、こと、反田とともに、児童室で泣いていた女の子の髪飾りを探すことになるが…。

「本を開けばどこにだって行ける、でも現実の世界はわたしには広すぎる―」。

不器用な本の国の住人が、なけなしの勇気を胸に歩きはじめるハートウォーミング物語。
(「BOOK」データベースより)

【ここから感想です】

 

日本最大と言われている(らしい)小説投稿サイト『小説家になろう』からの書籍化作品の一つです。
『なろう』発の書籍化作品は山ほどあるのですが、この作品のような書籍化への流れは初見だったので、読み比べたくなり購入しました。

作品感想の前に、その気になる経緯というのを簡単にお話すると、
「作者さんご自身は執筆当時、まったく書籍化の概念がなく、ご自身が創作仲間さんとネタやプロットを考えるのを楽しむ中で出来上がった作品に、ある日突然マイナビ出版さんから書籍化打診のご連絡をいただいた」
という、言ってみればスカウトのような経緯で書籍化された作品です。
(参考エッセイ:340pt作品の書籍化体験記
私が最初目にしたのはこちらの体験記のほうで、
「これだけ編集者さんを熱くさせる作品ってどんなお話なのだろう」
と興味が湧いた次第です。

小耳に挟んだところによると、
・書籍版は、お仕事ジャンルということで、恋愛要素を『なろう』版よりちょっと薄味に
・『なろう』版は恋愛ジャンル好きな方にも楽しめるテイスト
とのことで。嬉
恋愛ジャンル大好きなので、まずは薄味テイストの書籍版を読んでから、あとでたっぷり『なろう』版を楽しませてもらおうと、そんな順番で読みました。

ちなみに、『なろう』版は↓こちらです。
木苺はわたしと犬のもの ~司書子さんとタンテイさん~

恋愛小説を読むとき、私は男性のキャラを知っていく中で、その作品の好き嫌いを判断してしまう傾向があるのですが、この作品は、
「問答無用で主人公の司書子さんが可愛い!」
と、もうどうしようかと思いました。笑
司書子さんの一人称で語られるこの物語、彼女は祖母に育てられたからか、どこか古風で言葉遣いもとても丁寧。
奥手で個人として人と話すのが苦手な27歳(『なろう』版では三十路越えている設定でしたが)。
司書子さんの視点なので、冒頭では図書館司書ということもあり(私の偏見ですが)、本好きが高じて視力低下、眼鏡はしゃれっ気のない黒縁眼鏡&長いストレートの黒髪を一つに束ねた地味な女の子をイメージして読んでいました。
ひょんなことから図書館常連利用者・反田さんことタンテイさんと関わることになってから、彼女の視界が広がっていきます。
それまで職場である図書館と自宅の往復しかなかった司書子さんは、タンテイさんと一緒に行動をする中で、彼の知り合いなどとも会話をしていくようになり、その中でタンテイさんの知り合いたちの言葉から、彼女が実は美人さんだったことや、彼女のおばあさんもその町でマドンナと言われていた美人さんだったと知っていくに従い、読者も少しずつ司書子さんのビジュアル的なイメージを知っていきます。
その過程が小さな驚きの連続で、そして冒頭でそんな雰囲気を微塵も感じさせないのは、司書子さんの控えめで謙虚な人柄にあるのでは、と気付いて、ますます司書子さんが可愛らしく感じてしまうのです。
そして、司書子さんはとにかく鈍い。笑
人と関わることが苦手なためか、それはもうタンテイさんが不憫、と、彼の肩をポンとしたくなるくらいに、鈍い。笑
タンテイさん自身のためでもありますが、司書子さんのためにもメゲずに頑張って!
と応援したくなる愛らしい鈍感さです。笑←笑い過ぎ…

そのタンテイさんが司書子さんとある意味真逆の性格で、年齢の割にはとても若々しい少年のような、元気で純粋な人です。
とにかくアクティブな人で、じっとしていられない性分で、司書子さん曰く「とても世話好き」という感じの人で、とてもお似合いの2人なので、取り敢えず司書子さん、早く気付こう?と苦笑いとちょっぴり焦れた気持ちを抱いてしまうCPです、微笑ましい…。

この物語に登場する人たちは、お年寄りから子どもまで幅広く、だけど町の人の誰もが優しくていい人たちで、なのに、絵空事をそのまま、という感じの完璧な「いい人」でもない、というところが、とても生身の人間っぽくてリアルでした。
そこには、司書子さんも入ります。
ネタバレになるので伏せますが、目立たず地味で奥ゆかしい司書子さんでも、そしてある意味司書子さんだからこそ、そんな過去も自分1人で秘めておかないと、と自分を戒めるくらい、大切であると同時に申し訳ない気持ちもあったのだろうなあ、と、ここでまた司書子さんが好きになりました。
みんな、それぞれに「申し訳ない」と思ってしまう過去があり、だけどそれは第三者である読者からすれば、彼らのやさしく不器用な人柄に好感を持ってしまうくらい些末で「あるある」な話で。
何気ない一人一人の秘めた思いから人柄を感じてしまい、みんないい人、と安心して読める作品でした。

2つの事件の犯人捜しの物語が基軸になっているのですが、この事件も本格推理小説のような殺人だったり傷害事件だったりするのではなく、ほのぼのとした小さな優しい事件です。
司書子さん本人にしてみたら大事件なのですが。笑
実は私は推理小説が苦手なほうで、うまく咀嚼できなかったり、推理を楽しむことができなかったりするのですが、そんな私でもわくわくしながら読み進められる展開でした。
また、事件を追って解決までの流れや犯人(?)の動機も、なんとなく分かってしまう辺りが、逆に安心感やほっこりとした気持ちを読者に与えてくれます。
あ、でもジギタリス事件簿はまったく犯人の予測ができませんでした。笑

読後感としては、書籍版を読んだ段階でちょっとだけ物足りなさを感じました。
メインが『お仕事小説』であり、リクナビ出版さんからなので、これはもう単純に個人的な好みからくる理由ですが、結局タンテイさんと司書子さんは曖昧な関係のまま終わってしまい、続編が出ないかなあ、という物足りなさでした。笑

ですが!(思わず「!」付。笑)

『なろう』版が規約改正のおかげで削除しなくてよいことになって、本当によかったです!
ネタバレになるので何も感想を語れないのが悔しいですが(笑)、お気に入りの作品は紙書籍派なので、リクナビ出版さんには続編が読みたいです、とお便りを送ってみたいなあ、と思いつつ、そういうことをしたことがないので白い画面を前に悶絶する日々を送っていたら、初読読了からかなり長い時間が過ぎてしまいました。笑
恋愛小説というと、ドキドキしたりハラハラしたり、ドラマティックな展開を連想しがちなのですが、司書子さんとタンテイさんの恋愛には、そういう部分はない…とまでは言えないものの、花火のように百花繚乱、だけど一瞬、みたいな(口汚い言い方をすれば)俗っぽい「恋」というより、綿々と紡ぎ続けていく、長く穏やかな優しい時間を思わせる、とても温かでほっと落ち着く恋愛の在りようだと感じました。
タンテイさん、むkぃゃ言うまい…(ツライ…)

何気に司書子さんの大学時代の教授がイチオシのイケオジでした…。///
相変わらずのおっさんスキーでした、私…。
ちょい出の人ですが、司書子さんの人生に大きく影響した人で、とても奥さん想いな、照れ屋さんなところがステキな教授です。
恩師として素晴らしい人なのです…ちょい出なのですが(それが相当残念だった模様。笑)

もう何度読み返したでしょう。
久し振りに短期間で何度も読み返したくなる、ほっと心を落ち着けられる作品でした。
日々に忙殺されて心がすさんだ時に読むと、本当に心が洗われた気持ちになれます。
みんなが優しくて、一生懸命で、真摯に人と向き合っていて、悩んで迷って、だけど精いっぱいの努力をしている登場人物たちを見ていると、すさんだり腐ったりしている自分が恥ずかしくなってきてしまうくらい、ステキな人たちばかりが出てきます。
作者さんの他作品も拝読したのですが、どの作品にもそんな優しい雰囲気が漂っていて、作品には作者さんの人柄が出るのだなあ、と妙な感心をしてしまいました。
どれだけ知識やリサーチした結果得た情報を詰め込んだところで、自分の中にない人柄までは完璧に作品へ反映させることはできない、と言いましょうか。
(悪い意味ではなく、よい意味で)
そんな作者さん独特のやさしくあたたかな雰囲気があって、オアシスのような作品でした。