本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【20.01.06.】『教場』感想

 

教場 (小学館文庫)

教場 (小学館文庫)

あらすじ:
希望に燃え、警察学校初任科第九十八期短期過程に入校した生徒たち。
彼らを待ち受けていたのは、冷厳な白髪教官・風間公親だった。
半年にわたり続く過酷な訓練と授業、厳格な規律、外出不可という環境のなかで、わずかなミスもすべて見抜いてしまう風間に睨まれれば最後、即日退校という結果が待っている。

必要な人材を育てる前に、不要な人材をはじきだすための篩。

それが、警察学校だ。

週刊文春「二〇一三年ミステリーベスト10」国内部門第一位に輝き、本屋大賞にもノミネートされた“既視感ゼロ”の警察小説、待望の文庫化!
(「BOOK」データベースより)

【参考読了時間】4時間10分

 

【ここから感想です】

 

2年ほど前に購入して積読だった作品ですが(なぜか読み始めては中座させられる、という無限ループをしていた時期があり、最後に挫折してそれきりでした)、お正月ドラマが放映されると聞いて存在を思い出し、取り出してきました。笑

今回、ドラマを見て18分で「あ、これ読み終わってるんじゃないか?この後の展開知ってるわ」と気付いたので、そのままドラマを見たところ、あまりにも覚えていなかったのと、印象がまるで違うことに驚いて再読のつもりで読み直したら、栞が途中で挟まったままでした。(=読了はしてない)
当時の日記を読み返したら、半ばキレ気味に上述のような挫折愚痴を零していた、という。笑

閑話休題

警察学校、というあまり見ないところが舞台です。
そこが読者には未知の場所なのでそそられるという感じで手に取った気がします。
あと、単純に警察関係の知り合いが何人かいたので興味があったとか、そんな動機で買った気がします。

舞台は特殊ですが、そこで暮らす人たちの抱えているよいものやわるいもの、全部が巷にもよくあるものでした。
そこはやはり人を描いてこそ面白い小説、といったところでしょうか。
加えて、閉鎖的空間という場所の閉塞感が、義務教育課程の学校や全寮制の学校や寮を彷彿とさせました。
そんな空気の漂う作品です。

ドラマより先に読み終えていたのは、宮坂と平田のあれこれ+楠本と岸川のあれこれだったのですが、ドラマではめちゃくちゃ風間教官が直に動いていたのに対し、原作では上手に宮坂を使っている教官でした。
駐車場のパレットに下半身を挟まれた楠本を、ドラマでは風間教官自身が駐車場に赴きますが、原作では宮坂に行かせます。
そこで(無線越しに)実地指導、これにより宮坂は実践訓練ができ、4時間のリミットタイムを学び、楠本に問題提起をすることで強烈な印象を残して覚えさせている、という印象でした。
そして多分、宮坂は風間教官から楠本が岸川に宛てた手紙を見ていろいろ察していたと思うので、彼と楠本の2人ともが「思い込みの危険性」を痛感したのではないかな、と…やり過ぎ指導だと思いますが。苦笑

宮坂と平田の関係の落とし方についても、自分の印象では
ドラマ平田=クズい…
原作平田=気持ちはわかる!わかるけど…っ
という違いが。

都築のストーリーは、ドラマだと原作の別の人物の設定も混ぜていましたよね。
原作どおりなところは「TAX=おまじない」の話。
ここは割と原作では軽く触れられていたのに対し、ドラマでは続きの過去を大きく取り上げて華々しいラストへと繋げていましたが、都築が警察官を目指した動機は読了後印象に残っていません…。
ドラマ先行で原作を読んだことを後悔しております…。

ドラマとの比較感想はこのくらいにして、原作の内容そのものについて。

身内や知り合いに警察官を目指していた人、警察官になった人がいるので、元々警察に対して過剰に人徳を求めていないというか、警察官である前に「人」だしなあ、と思っているので、学生たちの抱えている未熟さゆえのネガティブな考えや感情、鬱屈感なども「まあ人だしなあ」という感じで、人間みがあって、舞台が警察学校という特殊な環境だけど、実はどこにでもあり得る人間模様という感じで、登場人物の気持ちに共感したり反発したりしながら読んでいました。

あくまでも、学生ひとりひとりのあれやこれやを散りばめている連載短編のような形式の作品になっているのですが、読了後に振り返ると、風間教官の言葉少なながらも刻み込むような形で教えられたことが、それぞれの身についている、という仕上がりで、読み終わってから「おぉ…」と風間教官の「教える」ではなく「実感させる」指導にため息が出た次第です。
覚えたことは忘れてしまうことがあるけれど、特に苦い思いをしたこと、感じたことは忘れられないものだと思います。
結構きわどいところまで攻めていく指導スタイルで(現実でやったら余裕で処分されそう…)、渦中では学生の反発や恨みが噴出するわけですが、ことが終わった後振り返れば、各々が自分で乗り越えるべき課題をクリアして警察官になっていく、という読後感のよい終わり方でした。

それぞれのエピソードは、ドラマよりも受け手に明確な1つの結末を出していません。
この辺りが、読者にも考えさせるまとめ方を胃として選んだのだろうなあ、と思いました。

蛇足ですが、雑学の宝庫だった点も面白く読み進められた理由の1つでした。
(自分が無知なだけなのかもしれませんが)

1)挫滅症候群(クラッシュ・シンドローム)に至るタイムリミット
 作中では5時間以上時間経過と記述されています。
 調べたところ、2時間でクラッシュシンドロームが起こる模様。
 南海トラフ怖い病なので、よい勉強になりました
2)トイレ用洗剤(塩素)×入浴剤(硫黄)
 ゴミを捨てるとき、成分によっては入浴剤の袋と一緒にしたら怖いな、と
3)ヘアムースは界面活性剤入り=シール剥がしに便利!
 そしてヘアムースの香料は、ものによってはスズメバチの大好物(甘い系)
4)公務執行妨害は実際のところ、そう簡単にはそれを理由に逮捕されることはない
 教員もそうですが、書類多過ぎ!(いやでも公務執行妨害は書類多くて当然なんですがね)
5)警察学校って男女共学なんだ…

挙げ始めると止まらないので、この辺で。笑

またドラマとの比較話に戻ってしまうんですが、かなり登場人物を減らし、その分、別の人物のエピソードを宮坂・楠本・日下部・都築に盛り込んでいます。
で、ドラマで登場していた菱沼は原作に登場していないんですね…。
これは…2か…?
というわけで、『教場2』も積読のままなので、機会を見つけて読もうと思います。