本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【20.01.14.】『教場2』感想

 

教場 (2) (小学館文庫)

教場 (2) (小学館文庫)

あらすじ:
必要な人材を育てる前に、不要な人材をはじきだすための篩。
それが、警察学校だ。

白髪隻眼の鬼教官・風間公親のもとに、初任科第百期短期課程の生徒達が入校してきた。
半年間、地獄の試練を次々と乗り越えていかなければ、卒業は覚束ない。
ミスを犯せば、タイムリミット一週間の“退校宣告”が下される。
総代を狙う元医師の桐沢、頑強な刑事志望の仁志川など、生徒たちも曲者揃いだ。
その中でも「警察に恨みがある」という美浦は、異色の存在だった。
成績優秀ながら武道が苦手な美浦の抱えている過去とは?

数々の栄冠に輝いた前代未聞の警察学校小説、待望の続編!
(「BOOK」データベースより)

【参考読了時間】4時間30分

 

【ここから感想です】

 

ドラマを先行で観たのが大失敗、と再認識。
ドラマの脚本は、やはり教場シリーズ全編からエピソードのいくつかをピックアップして、宮坂を始めとした主だった学生に割り振った、という構成になっているようで、原作では別の人物と風間教官とのエピソードになっているため、頭が混乱してしまいました。
原作は学生ごとの読み切り連載っぽい構成なので、原作で学生AやBの抱えている問題を、ドラマでは宮坂に複数振り替える、といった感じの構成に変えられていたようです。
頭からドラマの内容を完全に払拭できていないうちに原作に手を出した自分が浅はかでした。
自分の理解力の乏しさを自覚しているなら時間を置くべきでした。汗
言い換えれば、ドラマの脚本は、短編集を連続したストーリーに置き換えて、見る側をその世界観に引き込んでいく見事な構成だったわけで、原作では味わえないドラマならではの良さがあったと思います。
映像と声が観る側に与える影響力の大きさを改めて再確認した、というのが、原作と比較した際の感想です。

原作そのものについては、1に続きドラマ版のような熱を感じるヒューマンドラマタッチではなく、淡々と、でもどこか寒々とした雰囲気を漂わせる警察学校での小さな事件(事件?)が綴られていきます。
津木田と秦山のエピソードは、特に印象深かったです。
秦山はとある体質から、アレルギーではないけれどアスパラガスを食べたくない学生です。
でも、食事を残すと教官から罰を与えられます。
しかも教官は食器返却口の前で見張っているので、ごまかしがきかない。
致し方なく食べるわけですが、食事のあと必ずこっそりと一人でトイレに行く。
津木田はそんな秦山の謎行動に引っ掛かれりを覚えている学生。
そして彼は今ひとつ成績が芳しくない学生でもあり、連帯責任が基本のために、同じ班の乾たちから疎まれています。
異常とも感じられる監視の目、人格否定紛いの叱責の言葉や対応に鬱屈を募らせていく学生、という印象を受けました。
そして津木田を疎む乾は、漁師時代の癖の名残か、何かと物を隅っこギリギリに置く癖があります。
この癖がとある小さな事件(いや、大事件に発展したかもしれない怖い事件ですが)を誘引します。
この下りで、人間の弱さや思い込みの怖さ、主観を取り除いた客観視が如何に重要で在りつつも難しいか、というのを痛感させられるエピソードになっていました。

警察学校の経験者からは、なかなか手厳しい感想が多いらしい作品ですが、小説はエンタメ性を重要視される一面もあるので、一般的には結構謎の多い特殊な舞台で繰り広げられる人間のドロッとした部分をあぶりだす舞台としては、警察学校の何たるかを知らない一般読者には説得力のある作品だと思います。
教官たちの侮蔑や罵詈雑言に近い言葉も、実は意味がある、とか。
この不快感、憤りを忘れず、その雰囲気を当たり前のことにしてしまうなんて流されることなく、その奥にある教官の指導をちゃんと受け止められるかが、『篩』の部分なのかなあ、など、自分と自分を取り巻く環境に照らし合わせて自省を促される作品でした。

しばしばtwitterでも散見される警察学校でのいじめ紛いの環境、もちろん、耐えられなければ辞めていいと思うし、つらいと感じることを否定する気はありません。
でも、警察手帳を持つ人間は、常に罵詈雑言の中で仕事をしていくわけですよね…。
犯罪者は捕まりたくないから死に物狂いで逃げようとするし、時には暴力でねじ伏せなくてはならないこともあり、特にミスが許されない仕事でもありそう。
警察学校でのそれに耐えられないくらい心の根の優しい「だけ」の人には、全うできない職種なのかも、と思わせる作品でもありました。
実際の警察学校でのあれこれなどは、割と守秘義務があって話せないんですよね?(多分)
従兄が警察なんですが、疎遠にしているので裏取りの機会を逃してしまい残念至極。

『教場2』では、桐沢という元医者の学生がダントツでカッコよくてですね…っ。
ドラマ版で宮坂が「元教師」という設定でしたが、おそらく桐沢を宮坂のキャラ作りに盛り込んだと思われます。
桐沢は元医者なだけあって、人の表情から心理的な変化などを読み取るのがとてもうまくて、風間教官に一目置かれているのではないかと思われる学生です。
ただ、警察官としての心構えはまだまだ未熟なため、情報屋=情報提供者を守る、という概念が足りない部分はあるのですが、ネゴシエイターや情報分析支援の分野で才能を発揮してくれそう、と思える人材です。
勘の鋭さが半端なくて、新米医師時代に訪れた夜間救急の患者に引っ掛かりを覚えていたことから始まる彼のエピソードも、すごく面白かったです。
上述の秦山と津木田のエピソードでも、桐沢はいい仕事してます。笑
1つの事件の全貌を知れば、被害者や加害者の痕跡をいち早く発見してしまいそう、という将来有望そうな学生に見えました。

教場シリーズの何が面白いかと言えば、自分としては雑学の宝庫という点。
当たり前のこととして意識していなかったことに学生たちが謎を見いだして考えたり、ときには教官が問題提起して学生たちに推理させる形で、読むほうも一緒に頭をひねりながら読み進めます。
その過程がすごく面白くて、あっという間に読み終えてしまいました。
『教場0』も他館からの取り寄せ待ちですが、おそらくこちらがドラマ版で風間教官の過去を語っていた、そのくだりのエピソードがメインになるのかな、とサブタイトルを見て予測。
3冊分を3時間強のドラマにまとめた脚本家さんはすごいなあ、と改めて思いました。