本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【18.11.09.】『Aではない君と』感想

 

Aではない君と (講談社文庫)

Aではない君と (講談社文庫)

 

あらすじ:
あの晩、あの電話に出ていたら。
同級生の殺人容疑で十四歳の息子・翼が逮捕された。
親や弁護士の問いに口を閉ざす翼は事件の直前、父親に電話をかけていた。
真相は語られないまま、親子は少年審判の日を迎えるが。
少年犯罪に向き合ってきた著者の一つの到達点にして真摯な眼差しが胸を打つ吉川文学新人賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)


講談社文庫 『Aではない君と』(薬丸岳)テレビ東京でドラマ化!


【ここから感想です】

 

原作本を買ったのがいつだったか忘れてしまったくらい前、その後テレビ東京系列でドラマ化と知ったのが…放送後(涙)だったような記憶が。
原作を読了してから上記の動画を見直したら、発見当時に見た時以上に素晴らしいキャスティングだと思いました。
中村トオルさんは私の中で未だにビーバップな人なのですが(笑)、思い返せば、ドラマ「眠れぬ森」「つぐみへ…」などの作品で印象ががらりと変わったことを思い出しました。
自分では完璧と思っていたのに、そうではないと見る側に知らしめてくる名演をする役者さん、という印象です。
これが被害者である藤井優斗の父親としてまさにはまり役だと原作を読んで強く感じたので、本当にドラマ見たかった…調べたらまだ円盤化されていない模様(せっかち)

原作が本作と同じ薬丸岳さんの映画作品『友罪』でも好演(という言葉では足りない…)された佐藤浩市さんが主人公で、加害少年・翼の父親役でしたが、これも原作を読んだら、この人にしか演じられないのではないかと思うような人物でした。

未鑑賞のドラマの話はこの辺にします(相当後悔している模様。笑)

薬丸さんの作品はまだ2作目なので、まだまだ作風を理解していない部分が多く、『友罪』を引き摺った気持ちで読んでいた部分があるかと思います。
なので、犯罪加害者とどう向き合うか、ということを主軸とした物語として読み進めている部分がありました。
そういう意味では、『友罪』と同じく、読み手に提起された問題を読み手自身が模索し、答えを見いだしていかなくてはならないという、厳しく重い物語でした。

しかし、『友罪』では瑛太さん演じる鈴木が少年時代に殺めてしまった被害者の家族は作中に出てくることがなかったのに対し、本作では主人公が加害者の父親で、当事者の一面もあるので被害者とその遺族が登場します。
加害者の周辺にいる人間として、というよりも、加害者に次ぐ当事者として描かれるこの物語は、犯罪加害者被害者の身内ということと同時に、犯罪はさておき【親】としての在りようを考えざるを得ない心境に読み手を追い込んでいきます。

父親を嫌ってはいなさそうなのに、どこかで救いを求めているようでもあるのに、頑なに事実を口にすることを拒む翼。
なぜ話してくれないのか、自分が父親として至らない部分があったからかと、思い当たる出来事を次々と思い返しては激しく後悔する父親の吉永。
それにも関わらず、翼から真実を聞くのを恐れる吉永のエゴや、人としての倫理観から被害者の父親である藤井の気持ちを考えて焦りも感じたりと、彼の混沌とした気持ちや葛藤と、矛盾しているにも関わらず共感してしまいました。

藤井・吉永、親としてのどちらの気持ちが分かり過ぎて、親としての自分に不安を感じる2人のやり取りもありました。
どちらの親も、自分の息子がそんな酷いことをするなんてあり得ない、と息子を信じている。
(藤井のやらかしたことはネタバレになるので伏せておきます)
でも、1つの動画が、双方の親に認めたくない現実を突きつけてきます。
それを見たときの親の中で吹き荒れた激情がどれだけのものか…それを想像したら、少し読み進むことができずに休憩を入れました。
特に藤井パパのショックは半端なかったと思います。
自慢の息子で、親友である翼が悪事を働くのを諫めたり、いじめを受けているのを庇う優しさも持っていて…と思っていたのでしょう。
藤井パパの職業が弁護士である、というくだりにも、私はミスリードされて違う推理をしていました。

そして、吉永の出した結論を見て、私は親としてこの選択ができるだろうか、と、親としての自信を(元々希薄なのに)完全になくしてしまい…嫌でも自分の子への理解度について、疑念を持って振り返らざるを得ない内容の作品でした。

その一方で、藤井優斗くんがなぜそんな行為に走ったのかという気持ちが、まったく理解できないわけではないという辺りが何とも胸の痛む思いをさせられるものでした。
それを知った藤井パパが、どれだけの想いを抱いて、謝罪に訪れた吉永や翼に「帰れと言っているだろう!」と叫んだか…吐きそうなくらい泣きました(赤面)

藤井パパは、どれだけ悔やんでも、もう優斗に詫びることも、関係を修復することも叶わないんですよね──もういないから。
心から悔やんでいる翼を見たら、そして、誰と一緒にいるときよりも、翼と一緒にいるときの優斗が一番楽しそうで幸せそうな笑顔だったことを知らしめられたら、取り返しのつかないことをしてくれた奴なのに、優斗のために赦すしかないんですよね…赦せないけれど。

そして吉永は、藤井パパの気持ちも、翼への後悔や懺悔も、取り返しのつかない過去も、全部背負って生きていかなくてはならない。
なぜなら、それでも翼が生きていてくれてよかったと思ってしまうから。

この作品は、犯罪被害者と加害者、そしてその周辺の人の生き方について考えさせる物語であると同時に、親子の在りようを問う物語でもありました。

きっと、多くの人が犯罪とは無関係と思って、または思うことすらなく日々を過ごしていると思います。
でも、犯罪の被害者や加害者になる、という可能性を度外視しても、親子の在りようについて考えるきっかけになる作品でもあるので、是非多くの人に読んでもらいたいと思う作品でした。