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自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【18.10.23.】『日に流れて橋に行く』感想

 

日に流れて橋に行く 1 (愛蔵版コミックス)

日に流れて橋に行く 1 (愛蔵版コミックス)

 

あらすじ:

かつて大きな賑わいを見せていた、老舗呉服店「三つ星」。その三男・星乃虎三郎が、三年ぶりに英国から帰国した。 新しい「三つ星」を作ろうと意気込むものの、店の者からはまったく歓迎されず、変わらず優しいのは、長兄の存寅だけ。 一方、虎三郎を知っているらしき、謎の男・鷹頭も、「三つ星」再建のため、独自に動いており…。

【ここから感想です】

幼少時の勝手な思い込みから、明治以降の歴史は戦争にまみれているという印象で無関心&不勉強でした。

そんな私なので、呉服屋がデパートの前身ということさえ知らず、この作品で初めて知った、というくらいです。
そんな無知にも関わらず、この作品は明治の時代に流れる空気を想像させてくれるほど、丁寧に分かりやすく時代の雰囲気を味わわせてくれる作品でした。
しかし、それだけでは「お勉強」どまりなのでしょうが、この作品の主要人物は、どの人物も癖が強く、それぞれが皆個性的で魅力的。

呉服屋『三つ星』の三男、虎三郎は、跡を継いだ長兄の右腕になるべく英国で学んでくる熱血キャラで清々しい上に、後々は人の上に立つにふさわしい、人を見下さない人物です。さすが主人公。

長兄の在虎は、まだ読者に何が彼をそうさせているのか分からないのですが、時代に翻弄される中で、弟にだけは自分のような思いをさせたくないと思っているのではないかと感じさせるよい人、優しい人。

番頭の雀さん(虎三郎のせいで正しい名前を覚えられませんw)はイメージ的に私と同世代に見える保守的な部分がありますが、彼なりに三つ星の将来を考えて虎三郎と対立気味にあると思うと、彼が一番この時代で生き抜くことの難しさを伝えてきているように思いました。

そして虎三郎の師匠らしき(と言ってしまうのも、虎三郎があまりにも対等に接しているからw)鷹頭が、この作品で今のところ一番キャラが立っていると思います。
実際にこんな人が明治時代にいたらお上に目を付けられていそう、というくらいの俺様キャラで切れ者

そして三つ星の初女性従業員となりそうな時子さんは、今の時代の女性が応援したくなるようなキャラクターです。
この時代に高身長なこと、自分を保つということ、女性にはかなり難しかったと思います。
でも、彼女は決して肩ひじ張って自分の個性を保っているのではなく、ありのままの自分でいるだけです。
本当に、そのままの時子さんで頑張って、と応援したくなります。

そんな個性的な人たちが、ご一新後も古い観念や価値観に固執した人々を相手に、新しい『三つ星』を自分たちのやり方で、時代にふさわしい形で再建させてやる、という強い意志を読者に感じさせる作品でした。
彼らはそれぞれに学び、経験し、考え、悩み・・・と奮闘する物語、という序章の1巻でした。

間もなく2巻が配信されるとのこと。
ギリギリに知ったおかげで、次巻を待つ期間が少なくて済んだのがありがたいです。
結局紙で買い直しそうな気がしますが、取り敢えずは電子で何度読み返しても本が傷まないことに喜びつつ、何度も読ませていただける面白い作品でした。