本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【18.01.04.】『秒速5センチメートル』鑑賞

 

秒速5センチメートル [Blu-ray]

秒速5センチメートル [Blu-ray]

  • 発売日: 2008/04/18
  • メディア: Blu-ray
 

あらすじ:
雲のむこう、約束の場所』の新海誠が手掛けた連作アニメ。
小学校の卒業と同時に離ればなれになった遠野貴樹と篠原明里。
大雪の降るある日、ついに貴樹は明里に会いに行く決心をする。
「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」を収録。
amazon.com 内容紹介より)

【ここから感想です】

 

前回の記事で観てみると言っていた本作、初めて観ました。

話はいきなり本作の感想から大幅に逸れてしまいますが、前情報(しかも直接作品に関係のない、作者である新海さんの情報)を取り入れ過ぎてしまっていたので、いざ鑑賞してみたら、そういう雑念がちらちらと脳裏をよぎってしまい、ストーリーに没入するのが難しかったです。
作品のせいではありません…。

恋愛小説の雄、石田衣良さんが新海監督の『君の名は。』について、
新海さんは高校時代、楽しい恋愛をしたことがないんじゃないかな
と評していることに関連した一連のtweet(新海さんご本人のtweetを含み)をtwitterで見てしまっていたことも一因かと。苦笑
(参考URL:https://www.excite.co.jp/News/column_g/20170109/Litera_2839.html
↑註:「新海監督激怒」みたいな印象操作を感じる内容になっていますが、リアルタイムで拝見した限り、そうでもなさそうでした。
「あ、はい、そうですねhahaha…」みたいな印象でした。

という流れから本作の感想ですが、ストーリーについてはごめんなさい、石田さんと似た感想を抱きました。
「目に見えないほど遠い何かを我武者羅に必死で追い駆け掴もうとしている」
と聞こえはいいのですが、実際のところ貴樹は、明里とまた一緒に過ごせる自分になるための具体的努力をしていないまま終わっているんですよね…。
もちろん、親の都合で離ればなれになってしまったがために自分の無力さを悔しく思い、再び東京へ戻るために勉強に励んで東京の大学を目指したりもしているのですが、それは「明里とまた一緒の時間を同じ空間で過ごすための手段」であって、明里の心を繋ぎ止める努力とは似て非なるものです。
それでは、心の繋がりを維持または深めるための努力は、と言えば、いつの間にか手紙のやり取りをしないようになっていく描写がほんの少し挿入されているだけで(小説はまだ未読なので、ひょっとすると1時間というかなりきつい縛りの中やむを得ずカットされているだけかもしれませんが)、貴樹も明里もその恋を大事にするための何かしていましたか?という疑問が残るラストでした。
でも、なぜか貴樹は清々しそうなんですよね…。
引き摺っていた幼いころの恋をようやく吹っ切って、前を向いて歩いていく気持ちになったからでしょうか?
恋愛モノという前提で鑑賞していたので、妙な肩透かしを食らってしまった感が否めません。

ただ、高校生には憧れの恋愛模様なのかもしれないとは思いました。
場数を踏んでいない分、優しさにも種類があるということを感覚的に知らないので、優しい貴樹に恋をする花苗の気持ちの動きは女子高生として頷ける心の動きでした。

wikiを見る感じだと、小説版とかなり違うようです。
映画版の最後で、「1000回にわたるメールのやり取りをしたとしても、心は1センチほどしか近づけなかった」というラストメッセージを送った、3年間付き合っていた女性は明里とはまったくの別人だったようで、やっぱり1時間枠では新海さんの伝えたいものを伝え切るには厳しい縛りだったんだろうなあ、と思いました。

あと、やっぱりどうしても、山崎まさよしの「one more time,one more chance」は違う、と…っ。
(もう、本当にすみませんゴメンナサイ…)
随所にこのメロディが差し挟まれるので、これではたと物語から我に返ってしまったことも、没入できなかった原因になりました。

映像美は半端なかったです!
『君の名。』の情報も山ほど入ってきた時期があったので、静止画でどちらの作品もたくさん見ていましたが、動くとその美麗さが際立ちます。
実写にかなり近い繊細さで描かれ、キャラクターより背景に力が入っているのではなかろうかと思ってしまうくらいには眼福な思いをさせてもらいました。
新海さんは美術も担当されていたんですね。
拘りにすごく納得してしまいました。
この作品が公開された2007年と言えば、まだ今よりもかなり東京へ足を運べていた時期です。
その当時に即した駅や街の映像なので、ただただ懐かしくて、美術面を食い入るように見てしまいました。

当時はまだスマホがない時代だったので、ガラケーが時代を感じさせ、これも懐かしさを刺激するアイテムでした。笑

ストーリーについては文句に聞こえるようなことばかり書き連ねてしまいましたが、恋愛としてはそうだとしても、貴樹が目的のために日々を必死でこなすうちに忙殺が初心を埋没させてしまい、目的を見失っていく心の動きには共感を覚えました。
もっと適切な尺があれば、明里に想いが残りつつも別の女性と交際した下りも盛り込んで、恋愛作品らしい作品に仕上がっただろうになあ、と、映画業界の大人の事情が残念で仕方がありません。

多分、小説で補完してから鑑賞するほうがよかったのでしょう。
ちなみに、アニメ版もあるそうで、でもそちらはかなりオリジナル色が強くてベツモノっぽいです。
また小説のほうも読んでみたいと思います。
君の名は。』もそうですが、新海さんの作品は、sideストーリー込みで1つの作品、という構成が多いみたいですね。