本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【14.07.28.】『日本児童文学 2014年 7・8月号』感想

日本児童文学 2014年 7・8月号 [雑誌]
掲載内容:
 ・児童作品(詩、短編、掌編)8作品
 ・連載(ノンフィクション、批評、創作)3作品
 ・特集『ライトノベルとはなんだろう』…解説及び児童文学作家によるラノベ読書感想文
 ・各小説賞結果 他

【ここから感想です☆】

 今回は小説ではないのですが、個人的に思うところがあったので備忘録を兼ねて記事にします。
 掲載作品に関しては、私の誤解を大きく訂正してくれる作品群で、児童文学的の知識皆無な私にとっては、非常に勉強になる作品ばかりでした。
 児童文学だからと言って、何も赤ちゃんに話し掛けているかと穿った見方をしたくなるレベルまで噛み砕いた表現を用いなくてもいいんですね。
 ただ、児童が対象なだけに、一人称が多く感じられました。そこが児童文学の特徴なのかしら?
 でも、『精霊の守り人』は三人称だったし、児童の中でも、更に細分化されたターゲット層がいる、ということなんじゃないか、とか、いろいろ表現の工夫について考えさせられました。
 何もファンタジーでなくてもいいんだ、日常からのことでも児童文学は作れるんだなあ、と。
 児童に向けた現代モノがあってもいいのだと知りました。

 さて、ここからが本題なのですが。
『特集 ライトノベルとはなんだろう』
 常々自分が解っていなくて模索しているテーマが特集になっていたので、この雑誌に手が伸びました。
内容的には、ラノベを知っている層ではよく言われている
①重厚なストーリーやよく練り込まれた設定よりもキャラ立ち重視
②主要人物が読者の共感を呼びやすい設定(年齢や性別など)
③漫画やアニメ的なイラストがふんだんに盛り込まれている小説
④一文が短い、改行が多い、会話文が多い代わりに地の文が少ない、フォントの拡大など、視覚的な工夫が凝らされている
⑤面白ければなんでもアリ
 といった定義が列記されていました。
 が。
 同時に「それがすべてではない」とも綴られており、どの項目についても例外と思えるラノベ作品が存在していて、じつに「ぬえ」のように掴みどころがない、と。
 ラノベについてほとんど無知な自分は、この解説に甚く納得したのですが、ラノベをよく知る方などの中には、
「まったくラノベを読んでいない人へラノベを紹介するに当たり、この表現はネガティブな誤解を招きかねない」
 と懸念していらっしゃる方もいらっしゃいました。
「一応こんな傾向があるものの、例外的にこんな作品もある。ラノベとは、とひっくるめることが出来ないほど無限に広がりを見せる魅力のるつぼ」
 みたいな表現だと興味も抱けるのかな…。
 そんなことを感じながら、ラノベに触れたことのない作家さんによるラノベ感想文も掲載されていたので読みました。
 対象作品は
ソードアート・オンライン
涼宮ハルヒの憂鬱
僕は友達が少ない
俺の妹がこんなに可愛いわけがない
ロードス島戦記・灰色の魔女
スレイヤーズ
 どれも一応私自身も目を通したことのある作品でした。
 書かれていた感想は、ラノベ好きには非常に不愉快な印象を持つのではないか、と思いました。
 よい部分も必死で探してくれていたのでしょうが、やはりラノベを読み慣れていない人から見ると、読後感が満足していない作品に映るようです。
 願望充足小説が主流だった時代の人だからかも知れませんし、重厚な物語を良しとする方々だったかも知れませんし、読み手さん次第で評価や感想は大いに変わるのでしょうけれど。
 そして上述の作品を読んだ方々の感想が、自分とほぼ一致していた、という事実に割と打ちのめされました…。
 私個人としては、どれも二度読める作品ではなかったんですね。
 救いがないというか、その物語の人物たちがそう行動した結果、何かを得たのかというとそうじゃない、というか。
【薄味】
 多分、これに尽きると思います。
 そしてそれは、作者さんの力量不足だとか、そういうものではなく、寧ろその逆で、ニーズに合わせて作品を作れるというすごい腕前を表しているわけで。
 読者の方こそが、こういう薄味を求めている、という現在の流行りに結構落ち込まされました。
 現実が濃厚過ぎてしんどいんだろうなあ、と。
 だから、大した困難に遭わず、無双で勝ち進んでいく主要人物とか、やりたい放題周囲を振り回して大騒ぎな事態になってもなぜか憎み切れない主人公とか、それはアカンやろと思うはずのことに対しても、大きな葛藤はあまり見られないとか、『私』という読み手は、作品の中に現実をどこか盛り込んだ作品が好みだから違和感を覚えるのだろうな、と思いました。
 感想を綴られた作家さん方も、似た好みの傾向が感想文に表れたのではないか、と。
 初心者へ啓蒙するのであれば、ラノベのよさをよく知っている人に感想を依頼すべきだったんじゃないか、と思わせる特集記事でした。
 面白いよ、まずは読んで、と言葉で言いつつ、いざ実際に読んだ人の感想文を参考にしようと思ってみれば、そこには無理やりよい部分を書き付け足しただけの、批評、という印象で、どうなのかなぁ、と思った次第。
 外国人観光客に、日本のオススメスポットはどこですか、と尋ねてしまい、無理やり答えさせた、という印象でした。

 ピックアップした作品も、人気を博した作品だからこれらだったのでしょうが、ラノベでも充分に重厚な物語、緻密な設定を盛り込んだ作品もあるんですがね…。
 かなりその筋の人からは批判を浴びるんでしょうが…(戦々恐々)
 ブギーポップシリーズこそが、私の中では「ラノベの代表」だと思っています。
 一人一人に背景があり、葛藤があり、負けや挫折も知っている主要人物たちで(泡は別格仕様なので。笑)、それでも諦めずに戦う主要人物たちは、最後まで見届けたいと思わせる。
 だけど、文芸というところまで重たくはない。
 物語の濃厚さと気楽に読める感覚を兼ね備えた作品がラノベだと思っていたりします。
 厳密には、ラノベレーベルから出版された作品がラノベ、なんですけどね(人様から言われて非常に納得)。
 あと、やっぱり「小説」を謳うのならば、視覚的な要素ではなく、文章と物語で読者を惹き込むべき、と思ったりします。
 が。
 商売なので、需要がないとそういう作品を売り出せない。
 という、作品そのもの以外の影響がとても大きい気がします。

 結局、今の実際にお金を落とす読者層の傾向が、昔よりも「考える」「行間を読む」という能動的な作風を敬遠し、頭で考えなくてもするっと「視覚的に解りやすい、解釈の多様性がない」ものを好む、ということなのかな、と結論付けた次第。
 突出することを嫌がる現在の風潮がラノベの在り様を変えたというか、ラノベに限らず世間に溢れる諸々すべてが、現在の世相を反映した結果なのだな、と思っています。
 読者の質に意識が向いてしまうような記事内容でした。