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自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【17.03.17.】『REVERSE リバース』感想

 

REVERSE リバース (集英社文庫)

REVERSE リバース (集英社文庫)

  • 作者:石田 衣良
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: 文庫
 

あらすじ:
 ネットで出会い、メール交換だけで親しくなった千晶と秀紀。
 仕事や恋愛について、身近な人間には話せないような本音も、メールでなら素直に語れる。
 けれど、ひとつだけ、嘘をついていることがあった。
 実はふたりとも、性別を偽っていたのだ。
 相手を同性と思いながらも、次第に心惹かれてゆくふたりだったが―。
 性別や外見など、現実の枠をこえて心を通わせる男女の、新しい出会いと恋の物語。
amazon内「BOOK」データベースより引用)

【ここから感想です】

 相変わらず世相を反映させた作品を執筆される石田さん、そして今回のこの作品は、どうやらウェブで連載されていたものの書籍化のようです。
 常に新しいことにチャレンジし、出版業界に危機感を持っていらっしゃる作家さんなので、また違う味わいを楽しませてくれるだろうと期待して読み始めました。

 まず、先に難点を言えば、確かに「ウェブ小説」でした。
 おそらく一話当たりの文字数に制限があったのではなかろうか、と。
(連載中の作品をどこかの投稿サイトでお見かけしたことを思い出しました。多分、1話上限が1000文字のところだった気が)
 なので、石田さんの持ち味、それぞれの心情を深く切り込んでいく描写が活かされず、石田作品のダイジェストver.を読んでいる感じがしました。
 それと、後半からのジェットコースター展開も、石田さんらしからぬ感じでした。
 ただ、言い換えれば、総文字数がある程度決まった中(書籍一冊分、雑誌一話分、など)で自由に配分できる書籍用を書き続けていた石田さんが、この極端に短い文字制限の中で彼らしい作風を大きく損なわずに魅力的な登場人物たちを描けているところが、相変わらずすごいと思いました。

 と、渋い話はここまでで。

 上記リンクのレビューをご覧いただくと分かるかと思いますが、読書慣れしている本読み好きの方からの感想と、ウェブ小説やラノベなどの軽い文章しか読んだことのない方からの感想との間にあるギャップがすごいです…。
 ストーリー重視の石田さんらしからぬ、と言わせる人は、これまでの石田さんの作品を読んでいらっしゃる方が多いように見受けられました。
 キャラが活きていて個性的、ジェットコースター展開な後半はかつてのトレンディドラマを彷彿とさせて面白い、という感想もあり、私はこちら寄りの感想を持ちました。
 ストーリーの展開は、よくウェブ小説やライトノベルで見られるテンプレ的な展開。
 ストーリーよりも、如何に「あるあるな話」を「魅力的に見せて読者を惹きつけるか」に重点を絞った作品だと感じられました。

 ネットで性別を偽る、「あるある」なことです、実際に。
 かくいう私も、偽っているつもりはなかったのですが、結構長い間男性と思われていた時期がありました。笑
 そんな感じで、ネットユーザーの読者の興味や共感を冒頭から鷲掴みにする切り出しです。
 恋愛小説ですが、石田さんならではの大人の恋愛という雰囲気ではなく(登場人物はアラサーなんですけどね)、20代の若者たちみたい。
 お仕事小説でもあります、これも今はやりですよね。
 男勝りのキャリアウーマン、上昇志向で結婚なんて面倒くさい、インポート物の服飾ブランド開拓の仕事に生き甲斐を見出している千晶。
 Webデザイナー(だと思う; プログラマーっぽい業務内容とデザインっぽい業務内容が混在しているのではっきりと分かりませんが)、熱意溢れた入社当初と違い、納期に追われる日々の中、ただその日をやり過ごすことだけの毎日を送っている秀紀。
 2人はお互いに過去の恋愛でイタタ…となる経験をしていて、恋愛も今は勘弁、という感じなのですが、ネットを通じてお互いのことは、ものすごく大切な存在だと感じているところからスタートします。
 そしてお互いに自分の性別を偽っているので、お互いに自分が同性愛者なのか? と悩んでみたり、その気のない相手からのアプローチに悩まされたりと、なんだかとっても若い…。
 少しずつネット上の自分が作ったキャラ「キリコ(秀紀)」「アキヒト(千晶)」の性別にジレンマを感じ始め、会いたいのに性別を偽っているがために会えないからと、バカな方法でお互いのリアルな姿を確認しようとする。
 その浅はかさが愛おしく感じてしまう2人でした。

 レビューでは、本来の石田節を知っているからこそなのか、ネガティブな感想もあったりするのですが、若い世代を活字の本に取り込めない今(本を読むために時間を割くくらいなら、限られた細切れの時間にソシャゲをワンプレイするほうが暇潰しになる、というのが今の若い世代の考え方の主流みたいですね)、このくらいライトな書き口で引き込み、作家買いするほどファンになってくれたら紙書籍用の作品も読む気になるのではないか、と期待を感じる作品でした。

 私は紙書籍スキー・文芸スキーなので、石田さんの作品はやはり、最近読了したものであれば『北斗』とか、恋愛であれば『娼年』『逝年』『眠れぬ真珠』のような深みのある作品が好きなので、この作品をイチオシとは言い難いのですが、メンタルを根こそぎえぐって突き刺さるような作品は、今の厳しい社会を生きる若い世代には感動の前に疲弊を感じてしまうらしいので、こういった作品から石田作品に嵌っていくのもアリだと思いました。

 いつもより分析っぽい感想になってしまったのは、おそらくライトな作品で、感情移入がさほど強くなかったからかもしれません。
 どちらかと言えば、書き手目線で読んでいたみたいな気が。
 その目線を忘れずにいられる程度には、ライトで感情を強く揺さぶる刺激的な作風ではない、という意味で石田さんっぽくないなー、とは思いました。

 あと、当て馬役としか言いようのない、秀紀と同じ部署の同僚でフェミニンな比呂さんがヤンレデっぽくて怖かったです。笑
 まだ自分が告白しただけで秀紀が返事もしていないうちから、家族構成やら近隣の公園や小学校などを調べ上げているとか同居でも二世帯分離なんですねとか子供は何人欲しいとか秀紀の妹友人が就活で会社に尋ねて来ただけなのに嫉妬に満ちた目で妹友人を品定めするとか――怖い…っ!
 私の中で一番インパクトの強いキャラでした…。
 こういう、解りやすいキャラというのも、若い人には理解しやすくて読みやすいんでしょうね。

 若者思考の勉強にもなる作品でした。