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自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【19.04.20.】『あの子はもういない』感想

 

あの子はもういない (文春e-book)

あの子はもういない (文春e-book)

 

あらすじ:
――少女の生活のすべては、無数のカメラに監視されていた。

離れて暮らす高校生の妹が、突然姿を消した。
それも、同級生の少年が不審な死を遂げたのと同時に。
それを殺人事件と見た警察は、妹を重要参考人として追いはじめた。
妹の身に一体何が起きたのか。
その足跡を追うべく、私は妹の家を訪れた。
母の死を機に離れ離れになって以来、そこは妹が父と二人で生活している家……のはずだった。
だが、クローゼットに仕舞われているのは、高校生が着るには小さすぎる服ばかり。
しかも、父が暮らしていた形跡がどこにもない。
この家はなにかがおかしい……。
そんな違和感の中で、私は見つけてしまった。
居間や勉強部屋、さらにはバスルームにまで、家中に取り付けられている無数の監視カメラを――。

誰にも予測できない物語は、ノンストップで衝撃のラストへと一気に駆け抜ける。
息もつかせぬ韓国スリラーがここに誕生した。
社会派ミステリの旗手による超弩級エンタテインメント!
amazon内容紹介より)

 

【ここから感想です】

 

主人公のソンイと、その妹、チャンイは、見た目はよく似ていて美人なのに、子どものころから性格は正反対でした。
ソンイは、悪く言えば不愛想で大人に媚びない子ども。
実は自己肯定感が低いために、自分の言動に自信がなくて能動的な行動に出られない繊細な子どもとも言えるかと思います。

一方のチャンイは、悪く言えば、どういうリアクションをすれば自分をかわいいと思ってもらえるかを自覚している計算ができる子ども。
実は自分を顧みない親の愛を渇望していて、好かれようと必死な子どもだったとも言える子だと感じられます。

姉妹はどちらも、表現方法や対応が違うだけで、根幹にあるのは
親の愛に飢えている「見てもらえない子ども」でした。

この作品は、しばしば視点が変わる三人称形式で書かれていますが、主な視点はソンイです。
なので、チャンイを語る部分では、多分にソンイの主観が混じった表現がされています。
ソンイの受け止め方の変化も感じられたので、パーソナリティについて表裏になっている文章になってしまいます。
かつては人気俳優で人気女優だった両親のもとに生まれた姉妹は、いつまでも過去の栄光にしがみついて現実を直視できない両親によってネグレクトで育っています。
年の離れた姉妹であることも、姉妹の心の距離を遠のかせたと思わせる記述があります。
すべての発端は、過去の栄光を取り戻すために、子どもを道具にした、この両親の愚行にあるような気がします。

幼いころからのエピソードが丁寧に描かれており、親の庇護がなければ生きていけないソンイやチャンイが、常に親の顔色を窺って存在を否定されないよう怯えて生きている様子が生々しく描かれていました。
姉妹の間でも、親の愛情を奪い合う格好になってしまったがために、姉のソンイはチャンイの媚びる態度を疎ましく思い、妹のチャンイは親の意向に従えたと分かると勝ち誇ったように姉を見下す態度をします。
母親が亡くなると、父親は母方の祖父に「どちらか1人なら育てさせてやる」と言ったような物言いをします。
そこでソンイは、最初に期待され絶望されたこともあり、祖父母に「私を選んで」と言わんばかりに、チャンイより先んじて祖父の手を取ります。
ネグレクトな母親を育てた親なだけあるというか、祖父母はどうでもいいような感じでソンイだけを引き取る、という経緯で、姉妹は10年も音信不通になっていました。

しかし、ある殺人事件が起こったことにより、その重要参考人としてチャンイが探されていると知らされたソンイは、妹を探すことにします。
そして、あらすじにあるとおり、かつて自分も住んでいたはずの家の違和感を抱きます。
ネタバレさせずに紹介文を書くのが難しかっただろうなあ、と苦笑が浮かぶ紹介文です。(主観)
確かに紹介文にあるとおりなんですが、この違和感の種類を書こうとすると文字数がかなりかさんでしまいます。
監視カメラの存在や、なぜ小さめの服なのか、そしてネグレクトでだらしのない親だったのに、なぜかとても整頓された部屋にもなっているといういい意味でも違いもあったりします。

別人が住んでいたのか、それともチャンイは年齢不相応なサイズの服を着るしかないほど、衰弱や監禁状態などの酷い目にあっていたのか、など、この段階で読者はチャンイが事件に巻き込まれたという前提で読み進めていきます。

そこで殺人事件の被害者であるユンジェの父親、ヘスンと出会い、ヘスンは息子を殺した犯人を追って殺した理由を問い質すために、ソンイは次の犠牲者になるかもしれないチャンイを連れ戻すために捜索を続けるのですが、真相に近付いていくにつれ、実は「殺人事件」に巻き込まれたわけではないことと、根幹にあるのは、子どもを物扱いする両親を始めとした大人たちのエゴに帰結していく展開になっていきます。

両親が過去の栄光を取り戻す手段として、まだ4歳という幼さで常時カメラに監視され続けるチャンイの心が、その後の展開でさらに歪んでいく経緯は、ソンイの視点を通じて読む側にも息苦しい思いを抱かせました。
ソンイは妹を「助けた」つもりでいた。