本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【20.06.02.】『風間教場』感想

 

風間教場

風間教場

あらすじ:
必要な人材を育てる前に、不要な人材をはじき出すための篩。
それが、警察学校だ。
警察学校第百二期短期課程の教官を務める風間公親は、警官の資質なしと見なした生徒には、容赦なく退校を命じる鬼として知られていた。
その風間に校長の久光が命じたのは、「退校者ゼロ」の模範教場を作ることだった。
妊娠する女生徒も現れるなか、風間はミッションをクリアできるのか!?
累計70万部のベストセラー最新作!
シリーズ初の長編!

 

【ここから感想です】

 

商品説明の項目に記述された「シリーズ初の長編」という言葉で「あ、そうだった」と思い出すくらい、『教場』『教場2』『教場0』『風間教場』と、このシリーズは、短編オムニバスでありながら、長編作品と勘違いさせる一貫したものを籠めているシリーズです。
そう感じるのは、籠められているものの1つとして、風間公親の一貫している刑事としての姿勢に嘆息し続けて読んできたからかもしれません。

現役時代に新米刑事の教育係として捜査と同じ優先度で指導をし(風間教場、教場0も、だったかな?)、それにより右目失明に至ると、教官として警察学校に入職、ここでもまた、学生たちに「学校や寮内で起こる事件」という現場経験をさせる指導と解明を両立させていきます。(教場1.2)

他者視点で風間教官を見てきた読者が、この作品で初めて、風間教官の視点から物語を読むことになります。
学校や寮で目にする些末な異変(実は全然些末ではない)、自己顕示欲の強い上長からの無理難題(こんな厳しい状況下で退校者0なんてノルマは、これまでシリーズを読んできた読者なら無理としか思えなかったです)、冒頭で明かされた過酷なノルマに私は反発を覚えたのですが、当の風間教官は粛々と受け入れて、退校希望者の意思を覆させていきます。
数々のエピソードで風間教官が、退職希望者たちの背景や心理を分析し、退職希望者の意思を撤回させていく中で、少なくても私はようやく風間教官が何故上長からのノルマをクリアしようとしているのかが分かり、同時に、シリーズの中で一貫してきた教官の信条も理解できた気がしました。

彼は一貫して刑事であり、刑事の位置付けを「国民を犯罪から守る存在」と定義づけて、その信条の元に行動している、と、その強靭さに溜息が出ました。
警察官志望の人間も国民の1人であり、大切に思う家族がいる。
才能がなければ、一刻も早く諦め、無駄死に回避すべし。家族が悲しむから。
才能がある者は、個々に自身が客観的に自分を判断し、一般市民と共に自分自身も守る術を学び実践すべし。
そのためなら老いに足掻いてでも尽力するのが、風間公親という人でした。
彼が学生や若い助教たちに教えているのは、警察官になるためのノウハウだけでなく、
「人としての生き方・生き様」
でもある、と思う本作品でした。

その象徴とも感じられたラストシーンは、なんとも言えない気持ちで読み、本を閉じました。
次世代に繋いでいくこともまた使命、という、失敗や反省も含めた上での自負と使命感を感じられる風間教官には、願わくは新章でも学生や若い教官を導いていく姿を見せてほしいと思います。

なかなか知る機会の少ない警察学校の話は、それだけでも読んでいてただただ興味深いという意味で面白いです。
ドラマを機にこのシリーズを知ったのですが、原作をシリーズ最初から読むほうが、ドラマのオリジナル設定と混同して戸惑わずに済むかもしれません。