本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【13.09.07.】『キケン』感想

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 文庫
 

あらすじ:
 ごく一般的な工科大学である成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」、略称「キケン」。
 部長・上野、副部長・大神の二人に率いられたこの集団は、日々繰り広げられる、人間の所行とは思えない事件、犯罪スレスレの実験や破壊的行為から、キケン=危険として周囲から忌み畏れられていた。
 これは、理系男子たちの爆発的熱量と共に駆け抜けた、その黄金時代を描く青春物語である。
(「BOOK」データベースより)





【ここから感想です☆】

 


 理工学なんて鬼門中の鬼門、帯の煽りやあらすじなどから、そんな偏見のもと有川作品にも関わらず、即決で買えないでいた作品でした。
 その辺は関係なく読める、と教えていただき購入、積読していたものにようやく手をつけました。

 世代によって、どこがどう何を感じるのか、本当に千差万別、でも確実に言えるのは、『面白い』と『爽快感』、そして、『疾走感』。
 満喫出来ます。
 多少恋愛要素が出てくるのですが、自称・ラブコメラノベ作家の有川さんにしては、かなり恋愛要素は薄味です。
 レビューなどを拝見してみたら、
・男子(元男子)から見ると在り得ないらしいですが、女子(元女子)からみればいいなぁ~。
・懐かしい思いで読んだ
 などなど、それこそ本当にいろんな感じ方をされるみたいです。

 登場人物たちを、十年後の誰か(一応伏せておきます)が回顧録みたいな形で自分の妻に語っている、という語り口。
 十年後といえば28-33歳です。
 三十路でこの時代を振り返るのと、四十路でこの時代を振り返るのとでも、また全然違います・・・多分。

 私の世代だと、まだバブルが弾けて間もないころで、男子でなくともまさにこの作品の登場人物たちみたいに、無茶してやんちゃして先生たちに叱られて、でもいろんなことも暗黙で許されてて……本当に、いい時代でした。
 倦怠感や憂鬱な将来みたいなことを考えて醒めた目で毎日を過ごすのではなく、今日明日だけを見て一生懸命バカをやる、というか。
 上級生2人と拉致に近い状態で入部させられた新入生2名が全力でやらかした『新入生歓迎実験』の下りなどは、当時の自分たちが取り壊されることになった部室棟の壁全部に一晩掛けて春画(爆!)を書き殴って全部員職員室に呼び出された、という馬鹿馬鹿しくも懐かしい出来事を思い出させてくれるバカっぷりで笑えました。
 楽しいこと、くだらないことに心血注ぐ、とか、一生懸命全力で「バカ」をやっていたのを思い出させてくれる作品でした。
 文章で声を出して笑ったのは、かなり久し振りのような気がします(笑)。
 通勤通学での暇潰しに、なんてこと出来ません! ニヤニヤがとまらない怪しい人になること請け合いです!
 そのくせ、最後の最後でまさかの感情どんでん返し...
 読了後、しばらくは何も手につかなかった、というくらいヤられました...

 相変わらずキャラ立ちが、素晴らしい。
 今回、私がイチオシするのは上野先輩です(笑)
 この人の(内面のイケメンさは別として)言動が学生時代の私、そのまんまだと思いました。笑
 懐かしいやら恥ずかしいやら、でも、この人の言動は本当にはた迷惑で困りものなのですが、その根底にあるツンデレがもうなんとも・・・萌えポイントです。笑
 きっと当時の仲間は本当に迷惑被って大変だったんだろうなあ・・・と、苦笑いもかなり混じりました。
 登場人物の一人一人が、
「あ、私のこういう時代のときの、あの人みたいだ」
 みたいな感じで読めてしまい(性格の面で)、懐かしいやら可笑しいやら、自分の当時を思い出しつつ、でも出来事は当然物語の中で別のことなので、それ自体にも笑わされて、なんとも不思議な楽しみ方をさせてもらえる作品でした。
 最終章にある語り部氏の心情は、そのまま、私の長年抱えていたソレとおんなじで。
 ちょびっとだけ、私も彼のように勇気を出してみればよかったな、なんて悔やんでしまう一面もありました。

 作品そのものの感想からは少し外れてしまうかも知れませんが・・・。
 自分を元気付けるのに、幾つかの方向性がある、と言いましょうか。
①自分だけしんどいんじゃない、と励まされるような、逆境を克服していくお話
②絶望的にしか見えない状況の中でも、諦めない、よし、自分も諦めるもんか、と奮起させてくれるお話
③ただひたすらにばかばかしく面白おかしく、あとで内容を忘れてしまうような軽いお話
④他愛のない日常を精一杯生きている、でも笑うことを忘れないで、と教えてくれる日常系のお話
 今思いつくのはこのくらいですが、列挙したら行数がハンパなくなりそうなので...
 自分のその場の環境や状況に応じて、読む本を選ぶ、というのも大事だなー、と、この作品を読んでしみじみと思いました。
 現在、持病が複数箇所再発しまして、あまり無理をしてはいけない、と言われておりまして(汗
 くっそ、こんなもん気合じゃ気合!!
 ――と、自分の現状なんぞ、コレに比べりゃ大したことないじゃん! みたいなお話ばかりに関心が偏っていたのですが。
(と、この作品を読んでから初めて自覚しました;)
 これ、メンタルにはよくない、みたいですね;
 少なくても私には。^^;
 多分、この作品は私にとって④に該当する作品だったのだと思います。
 当時は一生懸命怒ったり笑ったり奮闘したりつらがったり。
 だけど、思い返せば笑って思い出せたり、甘酸っぱく思い出せたり、そんな
“形には残せない、だからこそ貴重な宝物”
 と言うのでしょうか。
 遠いいつか、今のことも、そんな風に笑ったり甘酸っぱい思いで振り返る日が来るのかも知れない。
 苦々しく思い出す、なんて嫌だな、じゃあ、今を一生懸命生きて、だけど笑える出来事もちゃんと拾っていけるようアンテナを張って日々を過ごそう、と気持ちを楽にしてもらえた作品となりました。

 逆に、若い世代の人はどんな思いでこれを読むのだろう。
 それがすごく気になります。
 現在進行形で青春時代を生きている世代の読者さんは、どんな風に受け留めながらこの作品を読むのだろう?

 どの世代にも面白おかしく、だけどちょっと甘酸っぱい気分も味わえる逸品でした。