本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【11.04.21.】『夜の桃』感想

 

夜の桃(新潮文庫)

夜の桃(新潮文庫)

 

あらすじ:
 これほどの快楽は、きっとどこか真っ暗な場所に通じている―。
 成功した仕事、洒落た生活、美しい妻と魅力的な愛人。全ては玩具にすぎなかった。
 安逸な日々を謳歌していた雅人が出会った少女のような女。
 いちずに自分を求めてくる彼女の、秘密の過去を知った時、雅人はすでに底知れぬ恋に陥っていた。
 禁断の関係ゆえに深まる性愛を究極まで描き切った、瑞々しくも濃密な恋愛小説。
(「BOOK」データベースより)





【ここから感想です】

 
 帯のあおりに「官能」と銘打たれていたので、ちょこっと照れつつも勉強と思って購入。
 官能小説とオカズ小説の違いを学びたかったわけですが、結局解らず、というかコレ恋愛小説ですね!
 こちらが気恥ずかしくなる直接的な単語が確かに散りばめられているのですが、嫌悪感を感じさせないのは、読み手に性的興奮を提供しようと目論んでいる内容ではない、と強くこちらへ働き掛けて来る物語だったからではないか、と思います。

 主人公、雅人は男性なのですが、もし自分にこれだけの性欲という原始本能が人並にあったとしたら、もっと共感していたのかも知れません;
 それ以外の彼の心理や思考などに、かなり共感して読んでしまいました;

 人間の性も、その時代の景気に合わせてダウンサイズするんじゃないか。

「だけど、なんで若い男たちから性欲が消えちゃったんだろうな」
「やっぱり、すべてがそろったからじゃないかな」
「そうだろうな。素人の女だけでなく、AVでも、フーゾクでも、キャバクラでもなんでもある。安くて、手軽で、サービスはきっちり」
「目のまえにあらゆるものが揃っていて、いつでも手を出せば欲求を満たせる。そうなったら、そうそうたべたくはならない」
「あと昔の女よりも、最近の若い子って、サウサクとクリスピーじゃないかな。ドライで引きずらない。セックスも恋愛もすごくあっさりしてるというかさ」
「なんでもあるから欲望が消えたというのは、今起きている事象の半分なんじゃないか。財やサービスだけでなく、問題は時間にある、と俺は思う」
「最初に欲望が生まれる。だが、それを育てるのは物理的な時間なんだ。必ずタイムラグというか、ためが必要なんだ。だが、現代はためがなくなった。欲望を育てる時間がなくなったんだ」
「おれたちはみんな待てなくなったんだ。本来、人と人が結びついたり、欲望をわけあったりするには、恐ろしいくらい無駄な時間がかかるものだ。今の若い男たちみたいに、もの心ついたときから時間に追われていたら、恋愛や欲望にあこがれる気持ちさえなくなるんじゃないか。だって、恋愛には得することなんて、ひとつもないんだ」


 引用が長すぎましたが(汗)、恋愛を主軸にしているし、性愛をメインにしているのですが、現代の人と人の繋がりの儚さ希薄さとか、それでも人は寂しくて独りではいられない生き物だとか、そしてそれは男性視点で語られたものであっても、実は女性も同じなのだと、最後のどんでん返し的な出来事から読者も気づかされていくという。

 愚かな失敗をしでかした雅人、それを見た瞬間、女性としての私が「ザマーミロ、自業自得、因果応報」と思ったんですけどね……。
 でも、その結末に、結局最後は苦笑してしまう。

 そしてやっぱり思うのです。
 男は一生女の子宮から生まれた「子供」のままで、女はやっぱりいつか「子供」を卒業させられてしまうサガなのだ、と。
 女性は、したたか。
 決断はいつも女が下す。男に下されるのだわ、なんて思ったり。

 私はなんとなく勝手に、ですけれど、雅人と石田さんご本人を重ねて読んでいました(苦笑
 甘いマスクしてますよねー、石田さん。
 いっぱい女性を泣かせていそうな気がします。^^
 でも、彼と恋をする女性はみんな、強くて逞しくて誇り高くて独立心旺盛な女性だったような気がします。
 彼女たちが(と、私が勝手に妄想してるだけなんですけどね;)石田さんを育てて、こういった作品を世に生み出させてくれてるのではないか、と。

 そう思わせるくらい、リアルな人間模様を描いたお話でした。