本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【12.09.12.】『シアター!』感想

 

シアター! (メディアワークス文庫)

シアター! (メディアワークス文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2009/12/16
  • メディア: 文庫
 

あらすじ:
 小劇団「シアターフラッグ」―ファンも多いが、解散の危機が迫っていた…そう、お金がないのだ!!
 その負債額なんと300万円!
 悩んだ主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。
 司は巧にお金を貸す代わりに
「2年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」
 と厳しい条件を出した。
 新星プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員は十名に。
 そして鉄血宰相・春川司も迎え入れ、新たな「シアターフラッグ」は旗揚げされるのだが…。
(「BOOK」データベースより)





【ここから感想です】

 
 劇団についてはまったく無知の私ですが、たまたま劇団スキーな友人が日ごろからツイッターで色々な劇団員のツイートをリツイートしてくれていたので、作品作り・舞台づくりにどれだけ精魂込めているか、それに対して興行収入を増やすことが如何に難しいかを漠然とは知っておりましたが。
 実在の劇団をモデルに展開されたこのお話、最初からぶっ飛ばす勢いで進んでゆきます。

 えぇと……司兄萌えに;←またソコか…。

 知らない世界の扉を開け、次から次へと興味や関心をそそる劇団運営の実情と、小劇団『シアターフラッグ』の無意識爆弾女優・羽田千歳ちゃんと司兄がどうなっていくのか、というフラグとか、巧弟の無自覚バカっぷりに焦れ焦れしたりとか、もういろんな萌え要素がてんこ盛りで。
 ハードな部分は経営とか、ちょっと今の世の中を示唆する『芸術文化に対する世間の価値観』とか、そういうことを考えさせられる作品でした。
 ソフトな部分は、劇団員それぞれの芝居に対する情熱や、それゆえに齟齬や討論などが始まって激論を交わして気まずくなったり、更に別の面では、腫れた惚れたの淡いラブ・ストーリー。
 と、何重にもオイシイお話だと思います。

 司&巧=春川兄弟のお父さんは劇団役者で、売れない役者のまま貧困死したのです。
 司兄は、そっくりな人生をなぞらえてゆく巧弟を心配して、厳しい条件を出して、
 全力でやって折れれば諦めがつく。
 という内心の目論見の元、お金を貸すわけですが。

 素直じゃないんですよ、この兄が。笑
 結局、弟が可愛くて仕方がない。
 冷血宰相の名をほしいままに、「守銭奴結構! 金は正義だ!」と『シアターフラッグ』の財務省をサクサクとこなすイケメンナイスなおっさんです。

 どこかセーシュンの匂いを感じますね。
 すっかり忘れ掛けていた何かを思い出させてくれる、妙な爽快感を感じる読後感でした。
 青臭いことを臆面もなく考えてしまえる作品です。

 全力でやって折れれば踏ん切りもつく、という司兄の持論は、納得。
 表現者のみなさんにとっては、司兄の零すひとつひとつが、自分の創作へのモチベにもなるんじゃなかろうか、と。
 彼は「部外者」だと自分を分析します。
 ちょっとした疎外感を伴って(苦笑
 だからこそ、「出来る人たち」を結局は応援してしまう。自分はそこへ立つことが出来ないから、出来る、ということだけでも、折角手にしている宝物なのだから、という考えなんじゃないかなー、と思ったり。

 何度も読み返したくなる作品です。
 ゆえに……手許にあるのに、まだ「2」を読んでいない、という…。
 本当は、『シアター! 2』も読了してからまとめて感想を、と思ったのですが、2のあとがきだけを読んだら、どうやら『3』で完結する模様。
 図書館戦争もそうでしたが、1冊として読んでも話として完結していて、でも通して読むことで全ての回収がされていて、やっぱりここで完結だよね、と思わせる、読者に不完全燃焼を感じさせない読後感を下さる有川作品は、ホント完成度の高さに毎回天を仰ぎ見てしまいます;