本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【13.01.22.】『夏と花火と私の死体』感想

 

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

  • 作者:乙一
  • 発売日: 2012/11/15
  • メディア: Kindle
 

あらすじ:
 村の森の奥にある一本の木。いつものように木に登っていたわたしは、枝から落ちて…そして死体となった。
 異色ホラー小説。ジャンプ小説ノンフィクション大賞受賞作。

(「MARC」データベースより)





【ここから感想です】

 2作品を収録。私はメインの『夏と花火と~』よりも、同時収録されている『優子』のほうが断然はまる内容でした。

【夏と花火と私の死体】
 物語は語り部である「わたし」=五月ちゃんが、友達の弥生ちゃんに背中を押されて転落死するところから始まります。
 まず、この語り部の設定に感嘆!
 そこへ視点を持ってくるかー! と、感心してしまいました。
 言い換えれば、ミステリーやサスペンス、推理物などは私の好むジャンルではないので、そんな自己都合から物語に没頭することは出来なかったわけですが、大変勉強になる作品でした。

 語り部・五月ちゃんは9歳。その設定から来るのか、とても柔らかな読みやすい語り口調で物語は進んでいきます、淡々と。
 その淡々さが、逆にブキミ。これ、人が死んでいて、子供たちだけで隠ぺい工作している話、だよね?(汗
 みたいな、大人が空恐ろしい思いで読んでしまう、といった感じでした。

 健くんは、五月ちゃんの好きだった小5の男の子で、五月ちゃんを突き落とした弥生ちゃんのお兄ちゃんでもあります。
 冒頭では、五月ちゃんがとてもよい人として彼を登場させています。
 が、物語が進むに従い、五月ちゃんが淡々と語れば語るほど、健くんのゆがみを感じて、ちょっと怖い。
 大人たちがどれだけ子供を見くびっているのか、ということも感じさせられました。
 若人目線のこのお話、本来楽しむべきはミステリー要素の部分なのでしょうけれど、私には風刺を交えた、おろかな大人たちを醒めた目で見る子どもたちに読者がはっとさせられるお話、という印象でした。

 最後、ちょっと謎めいた、というか、私の読解力がなくて「???」なところが。
 健くんの好きな19歳の女の子、緑さん。
 この子が、五月ちゃん行方不明事件と並行してちょいちょい出てくる“連続誘拐事件”に関与しているんですが、結局彼女は健くんをどうしようと考えてエンドマークを結んだのかなー、というのが、解らりませんでした…。
  これでわたしの悪い癖とも別れることができるかな……。
 とは、緑さんの弁。
 語り部である五月ちゃんは、健くんのことを、緑さんの心の奥深くに眠る小悪魔にそっくりな男の子、と称します。
 で、緑さんの抱えた秘密の場所で眠ることになった五月ちゃんは、そこで大勢の“どこか健くんと似ている男の子”たちとかごめかごめで遊び続けます。
 そこに、いつか健くんも加わることになるのか、それとも健くんを手に入れたことによって、緑さんはもう“悪い癖”を封印することが出来たのか、そして緑さんが望んでいたのはなんなのか。
 その辺りを読み砕くことが出来なくて、自分の読解力のなさが悔しいです。消化不良…。

【優子】
 見事に乙さんのミスリードに引っ張られてしまいました。
 たぶん、コチラの作品の方が私により強烈な印象を与えたのは、恋愛要素が仄かに含まれているから、かも、です。笑

 戦後間もない時代が舞台のお話です。
 若い人にこの雰囲気は解るのかな、と思いつつ、私は亡き祖母からの日常会話の中で昔の家長制度などなんとなく空気を感じ取れていた分、勝手にいろいろ膨らませて先が知りたい、続きが読みたい、とすごい勢いで読み進めていけました。
 若いとか年配だとか、関係ないですね。
 乙さんはお若い作家さんですが、それを忘れてしまうくらい、その時代特有の雰囲気や、どこかレトロな不気味さを味わえました。
 日本人形は、特に怖いです…っ。
 誰も悪い人がいない、という切なさが、なんともいえない読後感を味わわせます。
 政義さん…切ない…。

 この人の文章は、本当に突き放して淡々としてますね(初めて乙作品読みました)。
 私は濃い味が好きなのでちょっと物足りない文章描写だったのですが、その分、読み手に想像の幅を広げてくれるとも言い換えられ。
 あまり作者の「こう読んで欲しい!」という主張がないので、若い人に人気のある作家さんだというのはこの辺にあるのかなー、と勉強になりました。
 ある意味で突出している個性。線画だけの絵に、見る人が好きな色を置いていいよ、みたいな。
 実は3回ほど読んだのですが、自分の精神状態や読み方次第で、毎回テーマが違うんじゃないかと思ってしまいます。
 何度再読しても飽きない作品でした。