【12.08.07.】『ストーリー・セラー』感想
あらすじ:
小説家と、彼女を支える夫を襲ったあまりにも過酷な運命。
極限の決断を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた―。
極上のラブ・ストーリー。
「Story Seller」に発表された「Side:A」に、単行本のために書き下ろされた「Side:B」を加えた完全版。
(「BOOK」データベースより)
【ここから感想です】
よくも悪くも、この方の作品は、作者のキャラクターが顕著、というか。
女性主人公を描くと、いつも作者の気性を意識してしまいます。
この作品も、そう感じさせる作品でした。
あとがき含めて、この人はどこまでも「小説家」「作家」というよりも「エンターテナー」だなあ、と感服させられる。
タイトル「ストーリー・セラー」の名を欲しいままにしている、といえばいいのでしょうか。
そのタイトルに翻弄されている感じの読後感が、心地よい意味合いで
「やられた! 悔しいなあもう!」
という感じでした。
主要人物となる女性の方が小説家という設定です。
モジノカキの端くれとしての部分で彼女に共感し、「書きたいのに自分にはその才がない、ならば書いてくれる彼女のために」と限りを尽くして支えてゆく夫の「書きたいのに」の部分にも共感し。
主要人物ふたりは、私の中にある上述のそれぞれが2人の人間に分かれたかのような人たちでした。
別のお話に見えるSideBは、SideBで作家をしている女性がSideAの話を書いた作者とも受け取れる連作のようにも見えますが、これは読み手さまそれぞれの判断でしょう。
そんな自由度も有川さんらしく、誰にでも出来る手法ではないなあ、と溜息が出ました。
そのSideBが、やばかったです。
もう語彙が少ない所為だけではないと思う、この作品の感想を述べる難解さ…。
読みようによっては、作者自身の自叙伝かと思わせるところもあり(そしてそれは当然ながら、作者の術中に嵌っているわけです)、だけど、あくまでも「ストーリー・セラー」としての有川浩を貫いているエンターテイメントとも受け取れる。
名声や知名度や才能や、そういう【光】だけで人は構成されていないのだ、と生々しく伝えて来るお話でもありました。
私個人としては、主要人物の女性がまばゆくてまぶしくて、そして憧れてしまう生き様でもありました。
より共感を覚えるのは、あくまでも「読者」であり続けたご主人の方。
書けない=生み出せない自分、ならばせめて、才ある最愛の人が自分に代わって夢を叶えてくれる、そして何よりも自分が一番の読者であり、一号である誇りや自負心から、なんとしても課されたウンメイとやらいうフザケタものに抗って足掻いてやる、という――執念?
その執念は、妻となった女性主人公へ伝播してゆきます。
覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ覆れ
数えてみたら645回。行頭の空マスとかそういうの一切無視。
夫に下された悪夢のような現実を覆さんと、作家の妻は、自分の作品を誰よりも好きだと応援し続けてくれた夫のために書き続けます。
こんな運命は認めない。
あたしは作家だ。
あたしの商う物語は空想事だ。絵空事だ。単なる夢だ。
夢なら不幸は逆夢だ。――それなら。
彼女は書きます。夫を物語の中で殺します。
現実の夫を生かすために。その執念が、この645回の「覆れ」。
自宅で読んでいてよかった、と思いました。←涙腺崩壊;
そしてこの「逆夢」という言葉が、あとがきで「有川さんの言葉」として出てきます。
この物語は、自叙伝なのか、それともただの絵空事どまりの物語なのか――。
細部にまで手を抜かない有川さんらしいエンタメ作品です。
主人公の女性が、学生時代文芸サークルで、めったくそに処女作を叩かれるエピソードがあったのですが。
ちょっとネット小説などの講評ごっこの情景を連想させられる話でした。
それに対して女性の夫となったファン一号というべき「彼」は、
たかが三十頁の君の短編に頭っから終わりまで執拗にケチつけたって言っただろ。
それはね、そんだけ君の書いたもんに引っ掛かっちゃってるんだよ。
ホントにどうしようもないと思っていたら「まあ、いいんじゃない」のひと言で終わるよ。
流せなかった時点で負けてるんだよ、自分も「書く側」のつもりだったから。
「書ける人間」のつもりだったから、君の書いたたった三十頁の短編を叩き潰さないと気が済まなかったんだ。
君の小説を否定しないと、自分の「書く側」としてのアイデンティティが崩壊するからだ。
君の小説がそこまで脅威だったんだよ。周りの奴らにとっても。
読ませる相手を間違えたのだと、「書けない側」で「読む側」に読ませていたら、もっと早く飛べていたかも知れないのに、みたいなことを言って、主人公の女性に小説賞へ応募することを勧めます。
私は読書家ではないのでアレですが、こういう読者でありたい、と強く思った次第です。
時が経つのを忘れるほど、ほかごとをほったらかしてでも読みたいほどの作品ともっともっと出逢いたいから。
そんな風に思っていたからか、女性の夫となるこの「彼」とものすごくシンクロしてしまいました。
そしてこのくだりを読んでいて、この女性のモデルは有川さんなのかなー、ともふと思ってみたり。
彼女、電撃出身の割にはデビューの年齢が高いほうですよね(多分;)。
電撃って年齢層が若いイメージがあります。
醜い嫉妬心や非生産的なベクトルにしか動かない(周囲の)プライドが、彼女の芽吹きを遅らせていた、なんて過去があったのかしら、と思わされるエピソードでした。
上述の話が、モノカキをしてらっしゃる人にも届けばいいんだけどな、と思います。
もしも世間が受け入れないとしても、それは世間がそれを受け入れない環境にあるからであって、という夫の語るくだりも、モノカキ志望の方の奮起に繋がる言葉だと思いました。
敢えて文庫待ちではなくハードカバーで買ってもらえたらな、なんて思います。
もしも万が一、この一作が
「有川さんの逆夢を起こすレジスタンスの具現化」
だとすれば、なんてね、思ったりして(苦笑
感動をくださったのです、あくまでもストーリーテラーにまんまと乗せられただけだとしても、充分な対価だと思えます。
逆夢を起こそうという意図であれば、少しでも貢献したいな、と。
そう思わせるだけの圧巻の作品でした。