【12.08.27.】『おおかみこどもの雨と雪』感想
あらすじ:
大学生の花は、人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”に恋をした。
ふたりは愛しあい、新しい命を授かる。
“雪”と“雨”と名付けられた姉弟にはある秘密があった。
人間とおおかみの両方の顔を持つ“おおかみこども”として生を受けたのだ。
都会の片隅でひっそりと暮らす4人だが、突然“おおかみおとこ”が死んでしまう。
残された花は姉弟を連れて田舎町に移り住むことを決意する―。
(「BOOK」データベースより)
【ここから感想です】
おおかみと人間の合いの子、それは結構そそられる設定で、どんな序破急で攻めて来るのか、と期待して読んだのですが、いい意味で期待を裏切られました。
刺激的なお話を好む人にはオススメ出来ないかも、と思うほど、静かで穏やかで、絵本に属するお話、という印象を抱きました。
ファンタジーテイストの『サザエさん』?
下品要素を除いた映画版『クレヨンしんちゃん』?
どこまでも優しくてほんわかとするお話でした。
おおかみ男の子を授かる。
これはものすごく重大なファクターなのに、サラサラと(悪い意味ではなく)流れてゆくお話でした。
人間の子しか知らない花ちゃんが、獣医学と人間医学の両方を必死で学ぶのですが、そういう場面では、自分の中の親要素が妄想を増幅させて胸を詰まらせました。
どれだけ心細かっただろう、とか、お父さん(=おおかみ男)は、そのときすでに亡くなっていて、聞く人のない中、ほとんど眠れない中で失敗も許されない。
子供たちは容赦なくおおかみ人間としての本性も晒す。
ペット飼育は厳禁と言われているアパートで、大家さんやほかの住人に批難され、どんどん外へ出るのが怖くなっていく花ちゃんのくだりは、泣きそうになりました。
それでも、どこまでも穏やかに話は流れてゆくのです。
その穏やかに凪いだ、淡々とした記述そのものが切なくて、でもあったかい。
都会でおおかみこどもを育てるのは無理だ、と覚った花ちゃんは、こどもたちと一緒に、お父さんの故郷へ移住します。
ここもまた、別の意味でとても大変。
田舎特有の過剰介入は、自分の実家を彷彿とさせて、移住後間もない辺りの描写は、読んでいて私には本当にキツかった…。
雪と雨。お姉ちゃんと弟。何もかもが対照的なふたりの子供。
この子たちを、私は花ちゃん視点で眺めていたかも知れません。
活発で臆することなくおおかみこどもの習性を晒す雪ちゃんは、一体誰の子だ?! と思うくらい、両親のどちらとも似ていない(笑
何もかもに怯えて気弱な雨クンは、「お父さんも子供のころにこんなだったのかな」と思わせる優しい子供でした。
でも。
物語は意外な方向へと進んでいきます。
対照的な姉弟は、どこまでも対照的に成長していきます。
私は男の子の親をしています。
だからか、花ちゃんの雨くんの成長に対する焦燥や不安にかなり共鳴してしまい、彼が「先生」を見つけた辺りからは、読み進めるのが遅くなりました。
言ってみれば、先を読めてしまう感じです。
多分、ですが。
子供が読むには「つまらない」話ではないかと思います。
個人的には、「これは親殺しなお話だ…」と思いました。
見守ることの困難さや、それでも見守らなくてはならない覚悟を花ちゃんから学ばせてもらった気がします。
絵本、もしくは、
【とてもやさしく噛み砕かれた寓話的育児書】
そんな感じのお話でした。
盛り上がりや事件など、派手な展開はありません。
だけど、それだけに染み渡るものがありました。
映画やコミックでは、若干原作とは異なる部分があるのだとか。
私は原作しか読んでいませんが、やっぱりまずは原作をオススメします。
限られた時間や枚数に制限されるメディアミックス展開というのは、どうしても端折らなくてはならない部分が出てしまい、それゆえに原作で味わった部分が割愛されてしまうのが惜しい。
レビューなど一切見ていないので、巷でどういう評判なのかまったく知りませんが、私は読みやすくてステキなお話だと思いました。