【13.05.06.】『モンスター』感想
あらすじ:
田舎町で瀟洒なレストランを経営する絶世の美女・未帆。
彼女の顔はかつて畸形的なまでに醜かった。
周囲からバケモノ扱いされる悲惨な日々。
思い悩んだ末にある事件を起こし、町を追われた未帆は、整形手術に目覚め、莫大な金額をかけ完璧な美人に変身を遂げる。
そのとき亡霊のように甦ってきたのは、ひとりの男への、狂おしいまでの情念だった――。
(「BOOK」データベースより)
【ここから感想です☆】
百田尚樹という作家を知ったのは、非常にミーハーで恥ずかしいのですが、石田衣良さんととあるバラエティ番組にゲストとして出演していたのを見たときです。
番組内でレギュラー陣にお題を出して序文を百田さんと石田さんとで講評する、という番組内容でした。
そのとき、石田さんとはある意味で真逆の講評をされていたのが百田さん。
癖のある書き口を好む人なのかな、どんな作品を書く人なんだろう、と興味が湧いてから早一年弱(相変わらず行動が遅い;)。
――というわけで、長い前置き終わり。
たまたま本屋さんで、今年映画化されるということで平積み&ディスプレイされていたこの作品をチョイスしました。
高岡早紀さんが醜女→美女への変貌を演じるということで、いろんな先入観込みで読み始めたのですが。
序盤、プロローグのみが三人称、本編は主人公・未帆の一人称で綴られています。
まずモジカキの端くれとして非常に勉強になったのは、過去と現在の描写分けが非常に解り易く、どこで過去のエピソードを挿入して現在のその状況・心境に至ったのか、という順序が非常に読者にやさしい文章でした。
石田さんの描く女性が、甘えん坊の男が求めがちな強くたくましく、それでいてどこか儚げであるのに対し、百田さんの描く女性は、とても憎々しくてしたたかで、だけどやっぱり逞しく、そしてとてもリアルで、女性にこそ共感を抱かせるような印象を持ちました。
ぶっちゃけ、主人公の未帆は、ひどく嫌な女です(主観)。
なのに共感を抱いてしまう部分もある。
憎み切れない切なさを読み手(特に女性)に抱かせる。
生身の生きた女性、という印象でした。
並外れた醜い顔だったころ、田淵和子だった。
とある事件を起こしたのを機に、鈴原未帆と戸籍名を替え、少しずつ、少しずつ整形で自分を美しく作り変えていく。
自分を商品、または芸術作品として、自分の意志で自分を磨く。
同じ人間なのに、顔が綺麗になっただけで、未帆=和子とも知らずに手のひらを返す男たちは滑稽で愚かで、そしてそれもまた生々しいほどリアルな存在でした。
ひたすらに未帆は自分の顔を美しくしていくことに固執し、どんどん自分を作り変えていくのですが、読んでいる間中、私はずっと「間違ってるよ」と悲痛な気持ちで読み続けていたんです。
人はもちろん外見もある程度必要だけど、内面も同じくらい大事なのに、といった意味合いで。
これは私の解釈なのですが、終盤少し手前で、やっと彼女は、自分が醜いからバカにされ笑われ敬遠されていた、というだけではないと気づけたんじゃないかな、と。
そう思いたいだけなのかも知れませんが。
――私はこんな表情をしていたのだ。これでは誰からも好かれないはずだ。
ずっと自分の「顔」について拘って来た彼女が、ひょんなことから高校時代の卒業アルバムをかつての同級生に頼んで見せてもらったときに抱いた自分への感想です。
顔ではなく“表情”と唯一表現したのは、この一場面だけでした。
彼女の中から、自分を馬鹿にしてきたヤツらを見返してやるとか、所詮人間は光背効果でしか他者を見ないとか、そういう偏見だけではない、と気づいてくれたのなら救われるのだけど…なんて、色々考えさせられました。
彼女が美に拘った本当の理由は、自分を哂った人たちへの復讐ではなくて。
4歳。
そんな幼いころに抱いた淡い恋心のためだった…と、私が思いたいだけかもしれないのですが、そう思わせるラストは、彼女にとってだけのハッピーエンドだったように思います。
整形、美に囚われた彼女の一生は、実はそれに囚われていたのではないのかな、と。
振り回された周囲の人にはお気の毒としか言いようがないし、ある意味で自業自得だ、業の深い己のせいだと思っとけ、と鼻で笑えてしまうほど、男ドモがおバカさんばかりでした。苦笑
ただ一人、崎村さんを除いては。
この人、ソープの経営委託されているヤクザさんですが、もう個人的にはめっちゃくちゃ好みのいい殿方でした…。
未帆の整形前の顔も知っています。
「あんたじゃソープでは無理だ」
とザックリ斬るような辛らつなお人です。
この人だけは、未帆の内面もしっかり見つめてくれていた人だと思います。
どうして崎村さんを選べなかったのかなー、と、歯痒かったりもしましたが。
そこで初心貫く未帆だからこそ、崎村さんは未帆に惚れたのでしょうけれど。
物語なのに、物語のようには巧くいかない、なんともほろ苦いお話でした。
多分恐らく、カテ分けするなら恋愛なんでしょうけれど。
でも、それよりは人の背負った業とか、目を背けたくなる人間の本質と向き合わされるというか…人間ドラマです、多分。
未帆はどうしようもなく狡猾で嫌な女ですけど、悔しいくらい魅力的な女性でした。
確固たる自分というものを頑なに保持している強い女性だからかも。
全487P。読み応えあります。
最後、エピローグで、皆さんはどう感じるのかな。
私は、「ま、男なんて所詮こんなもんだ、はっ」と哂いました(汗