本と映画と日常と

自分が読んだ本、鑑賞した映画と日常の徒然を書き留める備忘録ブログです。感想記事にはネタバレもありますので、各自の判断と責任のもと閲覧くださいませ。

【10.07.02.】『告白』感想

 

告白 (双葉文庫)

告白 (双葉文庫)

 

あらすじ:
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
 我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。
 語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。
 衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラー。
(「BOOK」データベースより)





【ここから感想です】

 

 これは、読む人によって、読後感や感想、この作品に対する評価etc、すべてを分けそうな気がする作品。

 あとがきに感化されたわけではないのですが、言葉を巧みに操り嘘とまでは言わないまでも、本音を吐き出していない人物が若干二名──森口先生と修哉です。
 と、私は読了後に感じました。

 例えるなら、B組の委員長、美月や森口先生の娘に事実上手を掛けた直樹、盲目の愚母・直樹母などはとても人間臭い吐露を日記や作文、狂った直樹の心の声(?)に、嘘や隠された心情はあまり感じられませんでした。
 ある種の「理解」「想像がつく範囲内の感情」だったのではないかと自分では思うのですが。
 一方、森口先生や修哉の吐露する言葉には感情を示す「赦せない」「憎しみ」「悲しい」などの言葉が、どうにも乾いた響きで聞こえてしまうのです。
 嘘ではないんでしょうけど、そこに心が乗っていない、というか。
 自然と読んでいる中で自分の関心は、森口先生と修哉へ向かわされてしまうんですね;

 自分の読み方が変わっているとかおかしいとかなのかも知れませんが、この作品で、衝撃とか倫理観とは何ぞやとか、そういった『綺麗事』を語る気になれない自分がいました。

 視点変われば善悪も変わる。そしてそれさえも、各々の主観。
 誰がいいとか悪いとか。
 何がよくて悪かったのか。
 そういった「理屈」を度外視したくなる『何か』が解らなくてムズムズしてしまいます…。

 視点が変わるたびに、視点となった人物に感情移入して読むのだろうか;
 よく解らないのですが、読書メーターの感想を読むと、ラストに「気分爽快だった」という言葉も目に耳にしたり、かと思えば後味が悪いという感想になったり。
 なんというか、難しい作品でした。

 ただ、ひとつだけ強く思ったことが。

 自分の相手に対する愛情の有無を棚に上げて、自己保身から中途半端に好意の維持を仄めかしつつ別れることの弊害

 というのは強く感じましたね。
 修哉の母、この人は母として人として、どうなんだろう、と思いました。
 森口先生が彼女に修哉のしたこと、修哉が自サイトで綴った母へのラブレターなどを見せて、それに対して修哉の母がどんなリアクションをしたのかを作中で語られておりません。
「返事が気になりますか?」
 それだけ仄めかし、話を逸らしてしまいます。
 人間の使う言葉全てをもってしても表現出来ない感情が初めて表された気がしました。
 自分はそこから、修哉の母がどんな反応をしたのか推測(妄想?)出来ました。

 ここの「推測」もしくは「妄想」の部分がこの作品のネックだったのではないか、という気がして仕方がない。
 娘を殺した少年達やその母達、綺麗事を抜かす教師や思春期特有のカリスマに対する理性を欠いた崇拝の愚かしさ、何もかもに対する価値観ほか諸々のものを、「読者に」委ねてしまうので、怖い作品だと思ってしまいました;

 これは自分の妄想ですが、修哉の母は、修哉を疎む、関係ないなど、母としてどうなんだろうな、と思わせるようなリアクションを森口先生にしてしまったのではないかと思うのです。
 もし母の片鱗を見せたなら、もしも彼女が何かを失くしてもという覚悟で修哉と向き合う素振りを見せたなら、森口先生は爆弾を解除したのではないか、と思ったのです。
 この作品の中で、唯一何も失くしていない人なんですよね、修哉の母、という人は。

 そんな解釈をして読了しました。

 そして恐ろしいことに、自分はこの作品に出て来る登場人物の中で、誰に一番近いだろうと考えた時、修哉の母が一番近いのではなかろうか、と思ってかなりディープに落ち込みました。
 家人には、「ないないない(爆笑)。寧ろ直樹の母タイプ(爆)」と一笑されましたけど。^^;

 個人的には、森口先生のあり様が、人としてのあり様ではないかと思った次第。
 子供だからって何もかも赦されていいのか、と思わされる話です。
 昨今は頭でっかちの幼稚な子供が溢れているから、結果的に教え諭す方法もエスカレートせざるを得ない、というか。
 極論かも知れませんけど、なんかもう本当に色々考えさせられる作品でした。

 いろんな意味で、秀逸な作品でした。